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マルキとの争訟(上)

 裁判のことを相談しようと善は急げでサミュエル司祭のいる教会に行く。前に信徒がいたのでそちらの用を待ってから相談を持ち掛けた。


「こんにちは、サミュエル様。今日はご相談があってきました」

「おやおや何ですかな?」

「実はドナーティ商会のマルキにお金を貸していますが、返してくれないのです。裁判も考えていますが、領主がどう判断するのか心配で……」

「はて、商売のこととなると私には判断が難しいですな」

「他の商人に聞くと私の方がもっともだと言いますが、領主はその通りに判断しないかもしれないという人がいるのです」

「なるほど。私には領主様がどのように判断するかはわかりません。ただ領主様の裁判が不当だと思うなら、上訴することもできますよ」

「え? 上訴の制度があるのですか?」



 フェリスは日本で育ったのでもちろん三審制を知っている。だがシンディとマルコは、狐につままれたような顔をしている。


「ええ、上訴の制度はあります。領主の裁判が不当だと思えば、王国巡回裁判所に上訴することができます」

「え? どういうこと?」


シンディが疑問をぶつける。


「王国の判事団が国内を巡回していて、領主の裁判を見直しています。領主の判決に納得できなければ、そこに訴えて判決が覆ることもあります。

原審があまりに不当な裁判だと領主の失点になり、領主があまり勝手な裁判はできないようにしているのです」


司法を自分の都合のいいようにつくりかえようとする為政者は地球の現代まで含めて多いのだが、あまりおかしな制度にして押さえつけると内部の圧力が高まって暴発するから、公平な制度にして矛盾を生じさせない方がいいのだ。


「へえ、領主より国王の方が強いものね」


「以前にある領地であまりに身勝手な領主が身内びいきや死刑を伴う無茶な裁判をした結果、暴動が起き、結果として王国の方で裁判を監視する必要がおこりました。

それで法律に詳しい専門家が裁判を見直す制度にしたのです」


さらに重大な事件だと貴族院に上訴するケースもあるという。


「これならフェリスが勝てるかもね」

法律は弱きものではなく、それを知るものを守るのだ。



「ただ……」

司祭は何か言おうとしているので、そちらを聞いてみる。


「こういうことは実際は裁判になる前に内済で片付けることがいいとされています」


それは確かにそうかもしれない。もちろん同調圧力でおかしな因習を押し付けるために裁判を避けさせるのはよくないが、まともなところに落ち着かせてくれるなら裁判などしない方が楽だ。


「ただ、もうマルキとの関係は破綻していて、どうにもなりそうにありません」

「商売関係のことならまずは商業ギルドでギルドマスターに調停してもらうのがふつうかと思います」


相談に来てよかった。来る前は出たとこ勝負だったが、かなり色々様子がわかってきたと思う。




 帰宅してさらにシンディ・マルコと相談する。もちろん足元にはクロが私に構いなさいとばかりにすり寄ってきている。


「さて、そうしたらこの後はどうしようか」

「それはもうギルドマスターのところに行くしかないでしょ」

「まあ、そうなんだけど。それでもすることがありそうだよ」

「何をするの? ギルドでダメなら領主裁判、それでダメなら王国何とかに行けばいいんでしょう?」

「王国巡回裁判所だ」

「そう、それ!」

「そういう出たとこ勝負はうまくないよ」

「だって、勝てるんでしょう?」

「考えてみようよ。領主が裁判してマルキを勝たせたとして、それをフェリスが上訴して今度はフェリスが勝ったら」

「フェリスが勝つんでしょう?」

「それはそうだけど、領主がどう思う?」

「領主は面白くないでしょうね」

「そう。それがまずいんだよ。もう永久に関わらないならいいけど、今後も領主とは関わる可能性がある。だから領主の顔はつぶさない方がいいんだ」

「そうねえ。確かにそのとおりね。それでどうするの?」

「上訴でこちらが有利なら、領主にもギルドマスターにも上訴することを初めから伝えておけばいい」

「そうするとどうなるの?」

「上でひっくり返されそうなら、領主もギルドマスターもそんな判断は出さないよ。領主だって別にマルキのことをそれほど買っているわけでもないし」

「なるほど。じゃあ事前の接触ね」

「そういうことになるね」


日本の裁判で私的に裁判官に接触などすれば問題になるが、その辺はこちらはなあなあのようだ。




 もう店も大きくなっているので、主だったメンバーとも相談する。こういうことは話しておいた方がいい。


みな不安そうに聞いている。とはいえ負けたところで1000万くらいの損害だ。別に店が潰されるわけでもない。だいたい忘れていたような金だ。


アランが「どうなってもついて行くから」と言うと、みんなそれに同意してくれた。



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