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チートがばれる(下)

 ワルスに脅されていることをロレンスに相談すると、案の定怒られた。


「神様から頂いたギフトをそんなことに使っていたのですか」

ロレンスは説教する。いや猫の世話の対価にもらったものだし、世の中の役に立っているし、神は能力をもっと自分勝手なことに使っているぞ。


このシビアな話のそばで、猫のエサを豪華にしたり、毛づくろいをしたり、壁の傷を直したりしている神を横目に見ながら、一人毒づいた。


「そのことはともかく、いまはワルスのことを解決するのが先です」

話がいい方向に向いてくれた。


「それでどうすればいいでしょう?」

相談事をしているので少し殊勝な口ぶりになる。もっともロレンス相手だとときどきかしこまることもある。


「それをこれから考えましょう」

期待しただけ無駄だったかと思ったが、しばらくするとロレンスは絞るように話し始めた。


「いろいろ考えましたが、やはりこの手しかなさそうです」

「どんな手を?」

「忘却魔法を使います」


そんな便利な魔法があるのか。なんとも今回の事件の解決にはぴったりだ。やはりこの世界のことを知っている人は強い。


「ただこの魔法には問題があるのです」

問題があるのか。そんなにうまくはいかないか。


「どんな問題ですか?」

「この魔法はやや危険なのです。安全に使う方法もあるのですが、今回はもうすでにそれはできません」

「どう危険なのです?」

「危険は2つあります。1つはこれを使うと犯罪になりかねないことです」


なるほどそれは確かに危険だ。


「忘却魔法自体は素晴らしい魔法です。つらい悩みに苦しんでいる人の記憶を消して楽にするような使い方もできます。

一方で例えばお金を貸したことを忘れさせるような悪意に満ちた使い方もあります。だから本人の同意なしでは犯罪になりかねないのです」


「なるほど。それでは忘却魔法を使って忘却魔法が使われたことを忘れさせることはできませんか?」

「それは無理です。正確に言えば忘却魔法1を忘却魔法2で忘れさせると、忘却魔法2を使われた記憶は残ってしまいます。だから使われた者は犯罪として告発することが可能です」


ロレンスは続けた。

「ただ今回は大丈夫かもしれません。なぜなら忘却魔法でギフトのことを忘れさせても、恐喝したことは記憶に残ります。

それでワルスが告発しようとしても、事情を聴いているうちに恐喝が明るみに出てしまうことに気づくでしょう。

ですから告発される可能性は低いでしょう」

「なるほど、それなら大丈夫そうですね」

「はい。それで2つ目の危険です。こちらも重大なことなのですが、忘却魔法を使うと人格が変わってしまうことがあるのです」


確かに忘却で人格が変わるのはありそうなことだ。


「まあでもあの人格なら変わった方がいいですね」

「それがどう変わるかわからないのです。とはいえあなたを恐喝した人ですから、多少のことがあってもいいでしょう」


ロレンスは虫も殺せない性格だと思っていた。だから相談しても無駄だと躊躇していたのだが、案外とんでもないことをするようだ。




 忘却魔法を使うことが決まり、さらに作戦会議を続けた。


「それでは次のステップです。忘却魔法を使うにしても拘束してここに連れてこなければなりません」

確かに人前で使えそうな魔法ではない。


「あの魔法はやや長い時間をかけて被術者の精神に働き掛けないといけないのです」

「連れてくるだけなら、金をやるといえばホイホイ来るでしょう」

「わかりました。それでは拘束する方法です。見ての通り私は武力がありません。あなたもまだ体が小さいのでワルスには対抗できないでしょう。

剣術師範のレナルドなら余裕でしょうが、余計なことは話したくありません」

「攻撃魔法はないのですか?」

「はい、私はキャリアの上でも攻撃魔法はほとんど学んだことがないのです」


ここで手詰まりか、と思っていると、ロレンスは続けた。


「しかし攻撃魔法を使うことはできます」


攻撃魔法を学んだことがないのに攻撃魔法を使うとはどういうことだろう。俺が悩んでいるとロレンスが種明かしをする。


「スクロールを使えばよいのです」


スクロールというのは魔法の巻物のことだそうだ。巻物を広げて発動するだけで書かれた魔法が使えるという便利な代物だとか。


もっとも魔法使いに来てもらう方が安上がりだったりするので、それほど広くは使われないとのことだ。

これはレンタルなら5000ハルクくらいで用意できるらしい。


「鈍化の魔法を使いましょう。火魔法や風魔法だとけがをさせかねないし、建物にも被害がおよびます。遊び人程度の者なら鈍化で動けなくなるでしょう」


けがをさせてもざまあみろとしか思わないが、確かに建物に被害が及ぶのはよくないな。


「それでは明日にでもクラープ町の魔法商に行ってスクロールを借りてきます。あなたは明日は外に出ない方がいいでしょう」

「明日も集落に行かなくてはならないのですが」

「仕方ありません。仮病を使いましょう。子どもに使いに行ってもらい、明日は行けないと伝えなさい」


子どもなのに子どもの使いを使うことになってしまった。もっとも配達の下請けには使っていたのだけれど。


ロレンスが使いの子どもを探してきて小遣いをやり、その旨を頼んだ。

「決行は明後日です」


いつもいいねをありがとうございます。

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