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経理とギルマン氏(上)

 かなり商売が大きくなってきたので内勤のスタッフも必要だと思うようになった。


いまのところ帳簿付けと労務管理は俺がやっている。と言ってもそもそも勤務時間を長くしたくない上に、元の世界でそういう仕事をしていない俺にとっては前世知識チートが使えない。


無駄なく商会が回せているのか不安になってきた。いや無駄というのもいろいろな意味があって一概に言えないのだが、おかしな支出はしていないかだ。




 労務管理の方も本当はしなくてはいけないのだが一応ブラックにはなっていないので後回しにする。本当はそれも危ないとは思う。ただとりあえず先に経理だ。


帳簿はつけているし、金回りもいいので、赤字にはなっていない。だがそれでは商会としてまともに商売ができているのか怪しいように思えてきた。


実はどこかで大儲けしていて、逆にどこかは赤字垂れ流しで、トータルとしてどうにかなっているのかもしれない。


そこでマルコにも相談した。マルコは商業学校にも行っている。確か帳簿のつけ方を習っているはずだ。


「ごめん。本務の方のドナーティの仕事が忙しくて忙しくて。とてもそちらまで考えるのは無理だよ」

「いや、こちらこそごめん。いつも頼ってしまって」

「きちんとするには、経理担当者をつけた方がいいと思うよ。フェリスの商会はもうずいぶん大きくなったんだから、いるのが当然だと思うよ」


それはもちろんそうだ。シンディと2人でやっていたときはそれでもやっていけたが、こんなに人が増えて店も増えてではとてもそれでは追いつかないはずだ。


本当は俺も商業学校に行った方がいいんだよな。忙しいと言っているが、もっと忙しいマルコも行っている。なお夜間制だ。




 そういえば日本にいたころに年配の人、70年代くらいに勤め始めた人たちに聞いたところ、会社は残業に配慮して夜間の学校に行くことを奨励していたなどという話を聞いたことがある。


どうやらその頃は仕事もそれほど忙しくなかったようだ。もちろん会社や職場にもよるのだろう。


ただ確かにその頃は夜間の学校も盛んだったはずだ。それが多くの会社が忙しくなって、そのような配慮がなくなり、夜間部は昼間の課程に行けない人たちが集まるようになったり、その後はそういう人も少なくなって流行らなくなったりしたようだった。



 話を戻すと、帳簿は一応つけているがいわゆる単式簿記だ。さすがに何もつけないというのはまずいと思っている。


儲かればそれでいいという商人もいるのだけれど、一人だけならいいが、人が複数いるとそれはまずい。だが複式簿記の存在は知っていてもつけ方は知らない。


さいわいこちらの世界でも複式簿記は誕生どころかそれなりに普及しているようなのだ。あれは前世では13だったか15世紀だったかそれくらいのイタリアだった気がする。


元の世界の複式簿記と同じものかどうかはよくわからないが、とにかく大きな商売をするときには必要な簿記の方法があるようだ。




 複式ならどの店が儲かっているかとか、どの商品が儲かっているかなどがわかる。今それを調べようとすると資料を全部洗いなおして、また新たに資料を作らないといけない。


PCがあるわけでないから、ぜんぶノートの繰り直しで、さらにまた新たに紙に書かないといけない。どんどん紙が増えてしかも組織だっていないので収拾がつかない。


そうして資料が増えてくると、今度はどの資料が何を表しているか、途端にわからなくなる。




 別にある店や商品が儲かっていないからと言ってすぐに切るつもりがない。


儲かってない商品でもそれ目当てに来る客がいて結局他の商品の売り上げを上げていたりもするのだ。


だからそれを切るとその客が来なくなってけっきょくトータルで売り上げが下がったりする。儲かる所だけうまくとるというのもなかなかできない。


店ごとの売り上げはわかるのだが、仕入れは一括で行っているので、いまいち店ごとの利益がどれくらいかはわからない。


店の方も儲からないからと言ってすぐに切ったら、信用を無くすだろう。ただテコ入れは必要になると思う。




 簿記ができる人を採ろうということになった。商業学校の卒業生を待ってもよかったのだが、習いたてほやほやというのも少し不安がある。


それに商業学校の卒業生というと、もう少ししっかりした大手の商会に勤めることが多い。うちも小さくはないが、まだ新興の商会だ。なんとなく来てくれない気がする。


そこで商業ギルドに誰かいい人はいないかと聞いてみた。すると50過ぎで引退した人でアーデルベルト・ギルマンという人がよいのではないかと紹介された。


この町の出身だが現役時代はクルーズンの大商会にいたらしい。この社会は定年制度はないが、概して日本より引退は早い。


昔は日本も55歳定年だった。平均寿命の増大のせいというのはわかるが、だんだん逃げ水のように定年が上がって行っている。


55定年というのは羨ましい。前世であのまま生きていても15年ほどで定年になっていた。




 それはともかくこちらの商売で若い人ばかり取っていたが、実は年配の人も必要だと思っていた。人は外見で何かを判断することが多い。


そこで子どもや若者ばかりだと、それだけで下に見る者もいる。そういう時に年配者がいると、物事がスムーズに行くのだ。

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