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魔法研修

 従業員研修をしていたときに、魔法も研修できないものかと考えた。魔法塾のバーバラに頼んで一斉授業してくれないかと聞いてみる。商会の研修の一環だ。


仕事中にけがをしてしまうことは多々ある。そこで回復魔法が使えるものが多いとうれしい。

だがバーバラはそういう教え方はしたことがないとあまり乗り気でない。


「うちの商会の従業員に回復魔法の使い方を教えていただけませんか。10人くらい一斉に」

「あたしゃ、そんな稽古はしたこともないし、想像もつかないよ」


だいたい生徒と言わずに弟子と言っているのだから、基本的にはマンツーマンだったのだろう。


「教会で司祭が一斉に話すのは見ていますよね。それと同じようにしてもらえればいいんです」

「でもね、魔法は実技があるからね。司祭の説教とは違うよ」

「話をする部分もあるでしょう。ついでに絵画塾なども実技がありますが、何人もまとめて教えます」

「そうは言ってもね、教え方に自信が持てないねぇ」

「初めに全員に説明をして、同じ実技をさせればよいでしょう。そして生徒の周りを歩き回って気づいた点を注意します。今していることを複数人にするだけです」

「そんな面倒なことをしてあたしに何の得があるんだい?」

「もちろん1人や2人を見るよりはよけいにお支払いしますし、魔法が使える人間が増えればこの店の売り上げも増えるでしょう」

「よくも坊やはいろいろと知恵が回るね」

「魔法ではあなたの方が上ですが、商売は私の方がいささか得意なようです」


実際に商売も大きくしているし、はるかに利益を上げている。


「こんな坊やにやり込められるとは思わなんだよ」

いつもそうだが、中身はおっさんだというの。




 この世界は回復魔法があるせいか衛生概念など怪しい。もっとも地球世界だって、19世紀でも手術前に手を洗うように主張した医師がちっとも支持されず排斥されたそうだから、そんなものだろう。


俺はけがをしたらきれいな水で洗ってきれいな布を当てておくようには言っている。それで従業員がけがをして帰ってくれば俺が回復魔法をかける。


俺がいないこともあるのでどうせなら従業員自身が回復魔法をかけられればいい。オフィスワークだらけならけがなどほとんどないから、そこまでしなくてもいいとは思う。


だが移動販売も調理もけがをする場面は少なくない。もちろんけがを減らすように業務を組むことは絶対に必要だが、全く撲滅できるわけでもない。




 そこで全員がレベルは低くても回復魔法を使えるようにしたいと思ったのだ。


どうも魔法など自分が使うものでないと思っている人が多いようで、あまり乗り気でない者もけっこういるようだ。


初めからそのつもりだったが業務の一環として勤務時間中に商会の負担で研修として行うことで義務化することにした。




 バーバラの店だと10人入れるには少しきついのでうちで塾に使っている店に来てもらう。

生徒はうちで雇っている従業員で10代前半が多い。


バーバラはいつものだみ声で話し始めるが、生徒から聞こえないと言われると大声を張り上げ始めた。拡声の魔法を使っているという。それは便利そうだ。いずれ習うことにしよう。




 実際に研修させてみるとやはり得意不得意はあるようだ。この辺は日本での勉強に似ているような気がする。シンディがなんとなく避けたがるのもわかる。


それでも半分くらいはわりと使い物になるような回復魔法を習得できた。1名だがさらにレベルの高い回復魔法も習得し、さらに学びたいという。


ただその先まで商会の金で習わせるかは微妙だ。はっきりいうと商会としてはオーバースペックなのだ。そこまでは使いそうにない。


そうすると転職してしまうかもしれない。その時になって金を返せというのもブラックだ。


塾代の貸与とレベルの高い魔法を使うときの手当をこちらから申し出て、本人に自由に選択させることにする。あくまで商会と本人は対等な条件にして、本人の理解の上での選択としたい。


そうすると本人は迷っていたが、けっきょくそれを受けていた。今後もこう言うこともあると思うが、それも本人の選択に任せていいと思う。




 回復魔法を教えつつ、光魔法の方も教えることにした。


別に夜遅くまでブラックに働かせるつもりはないが、薄暗くて作業のしにくい場所は多数ある。


読み書き塾なども雨が降るとうまくなくなって終わりにしてしまうことも多々ある。それが光魔法があればそういうときも授業が可能になる。




 実際にしてみると、光魔法の方はそれなりにはうまくいったが、それなりにはうまくいかなかった。


やはり技量が高くないと魔力の消費が激しい。たぶん光だけでなく熱などに持っていかれてしまうのだろう。


そうすると魔石や魔法油などを使わなくてはならなくなる。それらを持ち歩かなくてはならないし、さらに経費も掛かる。


それでも使える場面はそれなりにあったのでそれに限定して使い、今後は使える場面と使えない場面を見極めつつ使うことで一定の成果は得た。





 洗濯屋の方で風魔法の研修もしてみた。一部の店だけだが、特急の洗濯を引き受ける。ふつうはかご一杯で2000ハルクだが、1枚2000ハルクにする。


その代わり引き受けると川に持っていかずその場で井戸水で洗濯し、風魔法で乾かす。だからその店には風魔法が使える従業員を常においておかないといけない。


けっこうそのシフトは面倒だった。あまり需要がなく、北部の少し金持ちが多い地区だけ残して撤退してしまった。


風魔法を教育した分のコストは損してしまったが、まあ従業員に何かプレゼントしたと思うことにしよう。


事業をしているからには失敗はつきものだ。大失敗にならなければいい。


習った従業員たちはときどき暑いときに涼んでいたりするようだ。ただ口に風を向けて変な声を出そうという者はいない。




 バーバラの方は研修の講師は面倒だったなどと文句を言っていたが、自分の魔法塾では客を増やすためか複数名の一斉指導コースを設けていた。


まあそういうところは商売人なんだと思う。商売では俺に叶わないけれど。チクリと聞いてみた。


「あれ? 一斉指導コースを設けたんですか?」

「どなたさんかに面倒な一斉指導を頼まれてね。指導方法を作るための準備にずいぶん労力がかかったので、こうでもしないと取り返せないよ」


相変わらず憎まれ口をたたいている。

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