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洗濯(下)

 洗濯機を作って洗濯屋のアイディアも浮かんだのだが、洗濯物の取り違いがおこりそうだ。それを解決すればけっこう儲かる気がする。


あるいはこの機械を貸すこともありうる。そんなことを思っていたが、よくよく考えるとすぐにまねされそうな気がしてきた。


まねされたら……、それはそれでいいかな。それなら干した後に家まで届けるサービスはどうだろう。それなら宅配が使える。


さらにそれなら、洗濯物を回収に向かうこともできる。そっちは回収と配達をまとめて安くあげられれば簡単にまねできないかもしれない。




 実は今でも洗濯屋はある。ただそれは川沿いにあり、そこに預けに行くと洗濯をしてくれて乾かしてくれる。


その後に客が自分で取りに行く形だ。川まで行かないといけないので客は結構面倒なようだ。なお見に行ったところ、洗濯は手作業のようだ。




 いくら洗濯が面倒とはいえ、40万の洗濯機では家庭用には高い。俺は半分趣味で作ってしまったが、よほどの金持ちでないと買えないだろう。


やはりここは洗濯屋をやるのがいいような気がする。そういうことでいつものように3人で話した。


アランたちが入らないのは単に思いついたのが家だからだ。そういうのもある意味よくないような気がする。後で意見は聞こう。


「せっかく洗濯機を作ったから洗濯屋ができないかと思ったけどどう?」

「それ便利そうね。洗濯は嫌だから頼めるなら頼みたいわ」

「いいね、それ。手荒れがひどいから冬なんか特にしたくないよ」


わりと好評なようだ。




 それで翌日はアランたちに聞いてみた。


「おお、そりゃいいな」


世の中全体で前世より洗濯の回数が少ないが、アランは清潔に気を使っているらしい。それでもやはり面倒は面倒なようだ。ジラルドも賛成している。カミロはまた別のことを考えている。


「それなら店で朝に引き受けて、夕に返したらよさそうです。集めたものを馬車でまとめて運ぶ。

それから少ない量引き受けると管理が面倒なので、かご一杯いくらにすればなおいいかと」


あ、また別視点でいい。




 食品工場のリアナとエミリたちにも聞いてみると、自分たちが使いたいくらいだと言っていた。それはそうだろう。


「とにかく洗わないといけないものが多いから大変」

「いやもうここにその機械が欲しいくらいね」


リアナの師匠はいつも白いコックコートで清潔を心掛けていたし、俺もそうするように言っているから洗い物が多いだろうな。


ところで食器洗い機はできないだろうか。ただあれは洗剤を工夫しないといけないから結構難しい気がする。




 そういうわけでみんな大賛成だった。ただどうにも根が心配症で、みんなに賛成されると何か落とし穴があるのではないかと不安になる。


とはいえこれだけ期待されたら、進めないわけにはいかない。こういう場合は小さく始めて大きくするに限る。いきなり人をたくさん雇うとかすると後でひどい目に合う。


これが他人の金や労力となるとやたらと大きいことをしたがるのがいて……、とまた愚痴になりそうだ。




 南の店舗で始めてみる。10時までに引き受けて、4時に返す仕組みだ。それ以降となると特に冬は暗くて店を開けにくい。


店の方は郵便とか食べ物とか行商拠点とかいろいろ機能が広がり、以前より営業時間が長くなっている。


時間がかかるのはほとんど干す時間だ。急ぎならかなり高くとってかぜ魔法を使うことも考える。それから雨の日は干しあがりを保証しない。


カミロのアイディアを取って、かごで引き受けて管理することにする。10時に集めたものを馬車で川べりに持っていく。


川には掘っ立て小屋を作っておいて、そこに機械を置いておく。盗まれたり勝手に使われたりしないように鍵をかける。


この辺はのんびりしているのかかってに小屋を作っても怒られない。日本でもかなりの田舎ならそんなものかもしれない。




 自分の洗濯をしていてわかったことがある。それなりにほつれたり破れたりすることもあるということだ。


だからその部分は保証しないことにする。ただし衣類をなくした場合はもちろん保証する。そのためにはやはり伝票が必要だ。引き受けのときに記録する。




 かごの大きさはあまり大きすぎず小さすぎず重ねて運べるようにした。そうすると管理がしやすい。


かご一杯で4人家族の下着3日分くらいで2000ハルクにする。少し高く見えるが、川まで往復1時間と洗濯に1時間かかることを考えるとそうでもない。


うちがそれで儲けられるのは、馬車でまとめて運び、機械でまとめて洗うからだ。


一回の洗濯ではそのかごの分だけを機械で洗って、一本のひもに通して干す。干しあがったら、かごに入れて戻す。もちろんかごにはタグが付いている。




 南の店でまず始める。いろいろとノウハウをためながらしばらくやってみると結構うまくいく。客にも評判がいいし、利益も上がっている。


値段は少し高めだが、客は川への行き来がなくなるのがうれしいらしく、使う人は増えてくる。それに伴い機械も増やすことにした。


もちろん他店舗にも商売を広げる。ついでに食品工場の洗濯もそちらに回すことにした。あそこも仕事はどんどん増えているから、少しは余裕ができると思う。




 問題は思わぬところからやってきた。他の洗濯業者がクレームをつけてきたのだ。そちらは商売が上がったりのようだ。ある意味ラッダイト運動みたいだ。


やはりやってみるといろいろトラブルが起こるものだ。結局みんな川まで来るのが面倒なようで、うちに頼む客がかなり増えていく。


そこで自由競争として他をつぶしてしまうことも可能だったが、面倒なので機械を貸して下請けにしてしまった。


このとき肝心なのは機械よりも、うちが洗濯物を馬車で持って行って、洗濯後のものを回収するシステムだ。


実際にうちの下請けにならず、木工職人に頼んで機械を導入した業者もあり、いくらかは合理化されたようだが、客の入りは少ないようだ。集配システムの方はうちに店があるから有利で、競合はやりにくい。




 文句を言っている業者もあったが、下請けになった業者は機械を使い前より仕事の効率がよくなる上に客待ちしなくていいので稼ぎは増えたらしい。


既存の業者は洗濯屋の技術があるため、目に見える汚れについて機械で洗うよりもっと落とせるようになり、うちとしてもよかった。




 客は川まで来るような面倒は避けたいようで、下請けにならなかった業者は客が減ってしまい、結局はうちと契約するか、商売替えするのが多くなった。


ただいままで川まで来るなら洗濯屋に頼むより自分で洗濯してしまう人が多かったが、その人たちの多くが近くの店に出して受け取れるならその方が楽だと頼むようになった。


だから洗濯屋の顧客自体はかなり増えていて、うちが従来の洗濯屋の仕事を全部奪ったわけでもない。


下請けを頼むようになり、うちで洗濯のために雇っていた人たちはいくらでも業務があるので別の部署に回すことにした。




 家に帰ってクロをなでながら、猫は洗濯しなくてもきれいなのにねえと話しかけると、言っていることがわかって反論するためかぺろぺろと毛づくろいを始めて、ちゃんと手入れしているところを見せてくれた。

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