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テキストとマニュアル作り(下)

予約投稿の日付を間違えて、7/8分を7/7に投稿してしまいました。

申し訳ありませんが、7/8は投稿なしにさせてください。


また明日からよろしくお願いいたします。

 あるていど事例集をまとめたものができたので、今度はテキストの編集方針について相談される。


それはそんなに微に入り細に入った完璧なものを作る必要はない。だいたい読むのは10歳くらいの徒弟だったりするのだ。


王都や商都で学問として商学を講じるわけではない。それは将来に商会が大きくなって幹部を教育するためならそういうものも必要になるかもしれない。


だいたいもとになる事例集がまだ十分なものではないのだ。これからだっていろいろな事態が起こりうる。だからあくまでもとりあえずのものだ。


「とりあえず作ってほしいのは、初めて仕事に就いた人用のものだ。10歳の徒弟も読むものなので具体的な内容がいいと思う。

あまり細かいことまでは書かなくてもいいし、難しいことは上役に相談するようにしておけばいいと思う」


「もう少し仕事ができる人用のものはどうしますか」

「それはまたいずれ。とりあえず店長とか幹部の方は事例集そのものか、それをまとめたものを見ればいいよね」

「初級用でどんな構成にしましょうか?」

「よくある場面を先の方にして、あまりない場面は後の方に、ただあまり遭遇しなくても重要なことなら前にね」




 そんな感じでだいたいの指示をする。こういうものも初めてのときは作ってみないとわからない部分はある。


作業する人は大変だと思う。ただそれに見合うだけの時間や権限を渡しておけばそれはそれで悪くない。


それなしで、とりあえずやってみろで何も考えずに突き進む連中がいて……、あ、また前世のこと考えている。健康に良くないからやめよう。




 その後も何度かいろいろ相談されて、みんなにも見てもらい意見をもらいながらとりあえずテキストができあがる。


内容が確定してから、少し費用は掛かるが職人に頼んで製本してもらった。100ページくらいのけっこう立派なものだ。


出来上がりを見て2人は感動している。こちらもなかなかうれしいが、作業した者はひとしおだろう。


前世で印刷所に頼んで薄い本を作っていた人たちはそういう気分を味わっているのかもしれない。いや、あっちは期限があるからもっとシビアかも。


リアナたちに経費で頼んで料理を作ってもらい、打ち上げをしてみんなで回覧した。




 そういえば昔の西欧では本というのは人が集まって声を上げて読むものだと聞いた覚えがある。


ちょっとそんなことをしてみる。いちおうみんなの意見が入っているが、そこは違うなとか、もう少し言いたいことがあるなど、いろいろ声が上がる。


テキストはあくまでもベースであり、ある程度形が整っていれば完璧である必要はない。


むしろ完璧など目指すと使えないものになってしまう。人それぞれ見方が違うのは当たり前で、その場で補えばいい。


とはいえせっかくなので書き留める。パーティなのに貧乏性だ。





 あとはこれをどう人数分複製するかだ。この社会には活版印刷がないわけではないが、かなりの費用が掛かる。木版を作るにも数百部くらいでないとペイしない。


そういえば日本でもオフセット印刷だと版を作る費用がかかるので、500部作っても100部作るときの倍もしないなどということがあった。


オンデマンド印刷という要するにプリンタで刷って製本するものは費用と部数がわりと比例していた。


オフセットは切片の大きい1次関数y=ax+bでbが大きく、オンデマンドは切片の小さい1次関数y=cx+dでdが小さい。たとえばオフセットはy=200x+80000で、オンデマンドはy=500x+20000などとなる。


切片があるのは、1部でも100部でも機械のセットなど同じ作業をしないといけない部分があるからだろう。


そこで部数が100部だと10万と7万でオンデマンドの方が安いが、500部だと18万と27万でオフセットの方が安い。


分岐点は連立方程式を解いて200x+80000=500x+20000となるので、x=200となり、200部でどちらでも12万になる。


なお1000部を超えるとまた別の世界らしい。それはともかく、今回の場合は数十部なので木版でも印刷はちょっと高い。




 仕方がないのでテキストは写本させる。写本はそれ専用に人を雇うのではなく、習う者にさせる。もちろん写本することで覚えてもらうためだ。


写本は勤務時間中にしてもらう。勤務時間中の暇な時間をつぶさせるが、持ち帰らせてタダ働きさせるようなことはしない。


タダ働きさせるような経営者はいずれ後でしっぺ返しが来ると思う。また思い出した、あの日本のバカ経営者ども。


従業員に持ち帰り残業させている連中はうまいことしたつもりだろうが、単に脅されて余暇を奪われたに過ぎない。


ちょっと失業率が下がればすぐに足蹴にされるとわかっていないのだろうか。ふだんから妥当な報酬を出さずにに都合が悪くなった時だけうまく出せるはずがない。どうせ人手不足で回っていないのだろうな。




 なお写本したものは貸し出しの形としてあくまで商会所有とし、番号をつけ台帳も作って管理し、外部への持ち出しを禁止した。


うちのノウハウが外に漏れても困るし、テキストを作るのも金がかかっている。もちろん紙代もインク代も写本代も商会持ちなのでそれも当然だろう。


従業員たちが独立するときに、記憶をもとに同様のものを作るの仕方ないが、そのままよそに持っていかれるのはまったく歓迎できない。




 せっかくカミロとジラルドが仕事に慣れているのでついでにもう一つ先の仕事もしてもらう。


マニュアル作りだ。業務日誌の整理したものがあるので、それをもとに作ってもらう。ただ実際の作業に乗り出すとそれだけでは済まないことが分かった。


日誌に書いていないような細かいことをいろいろしているのだ。そういう隠れた仕事が以外に大変だったり、他の仕事を進めるうえで重要だったりする。


とりあえずのものを作ってもらい、それを現場の人に使ってもらい書き込みをしてもらったり、インタビューをしたりして修正する。


実際に2人が現場に行くこともあった。もちろんうちはホワイトなので、2人はきちんと他の仕事を減らして、その分は他に人をつけておいた。



 マニュアルは仕事に慣れない人よりむしろ慣れた人に恩恵があるようだ。だいたい調べるにしてもある程度頭に入っていないと調べにくい。


それからマニュアルを見たくなるのは判断に迷うような微妙な場面だ。そういう時にマニュアルがあると対応に自信が持てるし、悩まなくてよくなる。


暇なときは考えを巡らせるのもいいが、忙しくなって次から次にいろいろ処理しなくてはいけなくなると、悩まなくていいのはありがたい。


いやだいたい悩まなくていいから新しいことに考えを巡らせられるようになるようだ。





 理由があればマニュアルに従わなくてもいいものとする。マニュアルだって完璧でない。だいたいまだこの営業を始めて2年とたっていないのだ。経験していない場面が多すぎる。


こういうまだ起きていないが十分起きうることは想定しないといけない。ただ別の対応をしたときはそれを報告するルールにする。


ある程度はマニュアルに沿って動いてほしいし、また逆に添えないときはマニュアルを改定する必要があるためだ。




 そんな風にしてテキストが導入されて従業員研修も本格的になり、マニュアルも作って運用されるようになった。これがずっと後でかなり重要な意味を持つことを俺はまだ気づいていなかった。

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