チートがばれる(上)
事件が起きます
チートがばれてしまった時の話をする。7歳の秋のことだった。村の中にワルスという名前のろくに働きもせずにぶらぶらしている30歳くらいの遊び人がいる。
彼は一旗揚げようと都会に出たが夢破れて実家に戻ってきたようだ。実家は農家だが、家に帰ってもろくに農作業もしないので、家族は持て余している。
「ワルス、いい加減畑を手伝ってくれないかい?」
「いまどき畑なんかやったって稼げないよ。俺は王都で新しいビジネスを見て来たんだからな」
「そういってもう2年も無駄飯喰ってるだけだろ」
「わかってないなあ。この村のみんなが儲かるビジネスを考えているんじゃないか」
「この村のみんなも結構だがね、まずあんたが食えるだけのビジネスとやらから始めてくれないかね」
「まったく田舎者はいやだね」
親がうるさくなってくると、ワルスは家から逃げ出す。とはいえ何かする当てもない。冒険者の真似事などしていた時期もあったが、たいして稼げないのでやめてしまった。
ワルスは「俺はビッグになる」とか、「儲け話はないか」とか、そんなことばかり言っているが、相手にする者もほとんどいない。
そのワルスはフェリスが何やら派手に商売をしていることに気が付いてしまった。これはどうも儲け話らしい。
そこでワルスはフェリスのあとをつけてみる。フェリスが手ぶらで集落に向かい、集落手前の茂みで何かしているを見る。そして突然、荷車を持って現れた。
いったいこれはどういうことか。あんなものはなかったはずだ。さらに見ていると、集落に入っていき、集荷をし注文を取っていた。
それを終えるとフェリスはまた集落を出て、茂みに入る。するともういなくなっていた。フェリスが何も持っていなければ茂みの奥深く入ることもできるだろうが、あんな荷車をもってそんなことができるはずもない。ワルスはこれは何かあるぞと気付く。
次の日にやはりワルスはフェリスをつける。フェリスは別の集落に向かい、また手前の茂みに入り、荷車を持って現れた。そして集落で集荷と注文を終えると、ふたたび茂みの中に消えていった。
世界にはごくまれにギフトと呼ばれる特殊な能力を持つ者がいることは広く知られている。
しかしギフトの持ち主はそれが知られると利用されたり脅迫されたりするので隠すことが多い。
どうやらフェリスはギフトの持ち主のようだとワルスは気づく。もちろんこの素晴らしい資源は俺がビッグになるために活用しなければならない。
ワルスはそれが当然であるかのごとく身勝手なことを考えはじめた。
翌日、フェリスが村を歩いていると、ワルスが近づいてきて話しかける。
「ちょっといいかな?」
フェリスは評判の悪い遊び人に話しかけられて、少し嫌な顔をする。
「何かご用ですか?」
「君、きのう南の集落の手前の茂みで何かしていたね」
フェリスはギクッとする。
「それがなにか?」
ワルスがどこまで知っているのかわからず、とぼけてみる。
「怯えなくてもいい。いや君の能力は素晴らしい。とはいえ、君の素晴らしい能力を十分に発揮できてはいない。この私がコンサルティングをすればさらに我々は飛躍できるだろう」
いつの間にか我々になっている。フェリスから見ればワルスなど何の仕事もできないごくつぶしのイカサマ野郎に過ぎない。こんなやつとはかかわりあいになりたくない。
「それで早速だが、私も君の事業に加わろうかと思う」
こんなのが加わっても、なにもいいことがないのは目に見えている。だが秘密を知られてしまっている上に、こちらは子どもの体で、向こうはそれなりに大きい。
しかもナイフまで持ち歩いている。いまこちらに勝ち目はない。仕方なく相手の提案に同意する。
ワルスは商都で事業を行おうとか、王都に商会を作ろうとか、実現可能性の全くない大ぶろしきを語る。
具体的にどのようにすればいいかと聞いても、それは今後次第だなどとけむに巻くだけだ。そしてコンサル料と称して今日の稼ぎの大半をもっていってしまった。
とりあえずいなくなってくれたのは助かる。しかし今後のことを考えると頭が痛い。どうしたものかと思い悩む。
ワルスは金をせしめると、クラープ町に遊びに行くようで、集ってくるのは毎日ではないが、数日おきではある。
さすがに3回も集られるとこのまま一生集られかねず、ごまかしで済ますわけにはいかないと悟る。
善後策について考えるが、自警団に相談すればギフトのことがばれかねない。
仕方なくフェリスはギフトのことを知っていて保護者でもあるロレンス司祭に相談することにした。




