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テキスト作りの準備(下)

 テキスト作りにカミロとジラルドを当てることを考えてさっそく2人を呼んで編集をしてもらうことにする。


「ちょっと君らにしてもらいたい仕事があるんだけどいいかな」

「はい」「はい」


「最近うちも新しい人が増えて来て、仕事を教えないといけないわけだ。

もちろん現場に出して教えるのは大事なんだけど、アランがやっているような研修も重要だ。

そこでなんだけど、研修用のテキストを作ってほしいんだ」


「僕らに作れるかなあ、まだ商売も長くないですよ」

「テキスト……か」

「ここにね、今までの業務日誌とか対応の記録があるから、これをまとめてくれればいいんだ」

「うわあ、かなりたくさんありますね」

「そうだろ。これが商売を続けてきた記録だ。ただ漫然とまとめるのじゃなくてきちんと組織化してほしい」

「うわあ、難しそう」

「まあ、いろいろやり方はありますね」

「どんなやり方があるかな?」

「例えば似たような事例別に並べるとか、仕入れとか移動とか販売とか場面別に並べるとか、あるいは新入の徒弟が上達する物語にするとか」


なるほど、確かに言われてみるといろいろな書き方があるな。


「とりあえず、実際にテキストを書く前に、業務日誌を整理します。これは材料なので、このままではすぐに使えないので」

「必要ならそうしてくれ」


なるほど確かにカミロは何か目の付け所が違う。結構こういう文書仕事に慣れているのだろうか。ふつうはすぐにそんなことはできない。


だいたい俺だってこの世界の人に比べたら文書の扱いは慣れているが、そういうことは思いつかなかった。


こちらはカミロ主導でジラルドが補佐と考えていたが、それを言わなかった。彼らの自由にしてもらえばいい。ただ言わなかったが自動的にそうなりつつあるようだ。マルコもなんとなくそうなると気付いていたのかもしれない。




 ところで実際の編集作業となると、残念なことにワープロソフトがあるわけではない。鉛筆もないのでインクだ。そうすると一回書いたら消すことはできない。


紙は高いが少し余白を多めに整理した文書を作ってもらう。書いたものにみんなで意見していろいろとコメントを書き加えるためだ。


「紙はふんだんに用意するので、後から書き込めるように余白を取っておいてほしい」

そう指示して後は任せておく。




 カミロもジラルドもふつうに商売の仕事もあるので、編集の時間が取れるように補助の人を採るようにする。また稼ぎの少ないわりに文書編集能力のある教会の助祭あたりに頼んだりする。


もちろん編集作業は勤務時間中に商会の中でしてもらう。持ち帰り残業などはさせない。だいたい業務日誌はコピーもないし、外に持ち出されてなくされたり商売敵に見られたりしたら困る。



 実際の編集を見ていると2人があちこちにしおりを挟んでいる。言うならば付せんのようなものか。


日誌にページ番号を振っていいかと聞かれたので許可する。そういえばページ番号があった方が後から参照しやすい。日付を書いてあるから参照できないわけではないのだけれど。




 その上でカミロは日誌をもとに事例を作って問題と解決にまとめている。途中で気づいたので後で考察が入れられるように余白をさらに多めにしてもらうことにした。


それはノートではなくてサイズは同じだが綴じていない紙に書いている。いちおうきちんと裁断されているようで、紙のサイズは全部そろっている。


それをまとめて穴をあけてひもを通す。穴あけパンチなどないので、きりで穴をあけるしかない。




 1か月ほどで第1段階として、事例集ができた。1ページに1事例であり、余白もとってあり、裏面も空けてあるので、書き込みがかなりできる。閉じてあるものをバラバラにして組みなおすこともできるようになっていた。


これほど早くできたのはカミロの集中もあるが、もともと業務日誌が1年分ほどしかないからだ。今後もっと日誌も増やして事例集も増やすべきなのだろう。




 ジラルドに様子を聞いてみた。

「いやあ、カミロ君は仕事が早いし、まとめるのもうまい」

「でも、どう? 無理な対策とかそういうのを書いてない?」

「ああ、それはたまにありますね。まあそれでも2人でしているので、こちらもいろいろ口を出しています」


たまにというのはカミロをかばっているだけで、たぶんたまにではないだろう。





 前にカミロとジラルドの編集作業を見ていたことがある。


「この事例のクレームだけどね、これ却下だよね。こんな風に話聞く必要なんかまったくないよね」

「いや確かにそうなんだけど……、だけど相手が完全に悪意があるわけでもないし、少しは話を聞いてもいいかなと」

「だけどこっちが正しいわけだしこんなの相手にしていたら時間が無駄じゃない? みんな忙しいんだし」

「理屈としてはわかるけど、実際の商売ではあまり割り切っちゃうといろいろ問題が起こるよ」

「理屈があっているならそれでただしいんじゃないの?」

「相手に納得してもらわないといけないのはわかる? そうしないと後で差し支えるし」

「だって納得しなくてもこちらが正しいなら裁判すればこちらの勝ちになるわけだよね」

「そんなに簡単に裁判はできないよ。はじめはうちうちで話し合わないといけない」

「なにか結局無駄な気もするけどね」

「うーん、それは無駄じゃないような」


ジラルドがやり込められそうだったので、俺が少し介入する。


「確かに商人間の大きな取引だったら理屈で押して裁判でも何でもして法的に妥当なところに落ち着かせるのはありだと思うよ。だけど個人相手の小さな取引で裁判なんてしていたらとてもコストが合わない。

ついでに言うとそんなにしょっちゅう訴えていたら、怖い店だと評判が立ってお客さんが寄り付かなくなっちゃうよ」


裁判などの紛争のコストは争っている金額に比例して大きくなるわけではない。1つの事件ごとに一定の負荷がかかるので、小さな事件で裁判はつらいのだ。


「ああ、そうかあ。確かにコストがかかるな。そうすると最適化できないか」

いちおうそれは理屈は理屈なのでカミロも納得したらしい。


商売をしていれば仕方がないが、あまりコストの概念は好きではない。だいたい目先のコストばかりに目がいって、先々のことを忘れるからだ。トータルを考えると実は損をすることも多々ある。もちろん先を考え過ぎて動けないのも困るのだけれど。


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