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新たに研修をする(下)

 そこでさっそく研修を始める。クラープ町の各地域で採用された人たちが数人いる。彼らに中心にある本部まで来てもらう。


もちろんブラックでないので勤務時間扱いだ。馬車があれば馬車代も出す。勤務時間扱いなので時間が短い方がこちらは安く済むのだ。


このへんブラックだと、歩かせてしかもその時間の手当ては出さない。得したつもりで、逃げられる人は逃げていくし、少し気の利く人は来なくなる。結局よそに行けない人間だけ残る。全くの猿知恵だ。



 そこで俺が前に立って教える。教えるにしても全く何もないところから話すのは無理なので、思い出したことや業務日誌をもとに商売の流れを話す。


内容としては一通りのことは抑えてある。始業から終業まですべきことと特に気を付けるべきこととよくありがちなトラブルなどだ。


あまりに珍しいことは上の者が対処すればいいし、そのうち覚えてくれればいい。




 そう自信をもって話したつもりが、なんとなく反応がいまいちなのだ。いちおう納得はしている。


「習ったことをもとに明日から商売を頑張ります」

などと研修生は言ってくれる。


だがなんとなく、棒読みというほどではないのだが、反応がお仕着せっぽいのだ。


わかりやすいのはシンディで、明らかにあくびをかみ殺している。


一斉講義というと学校で教師の授業を受けたときのことはもうほとんど覚えていない。覚えているのはロレンスの説教だ。それを参考に話したつもりだ。




 家に帰ってからシンディに聞いてみた。


「今日の研修どうだった?」

「おもしろくなかったわ。なんかロレンスさんの説教聴いているみたい」

あれ? もしかして目指した通りなのかな。


「ロレンスの説教を参考にしたんだけど」


それに対してマルコが口をさしはさむ。

「そりゃまずいよ。えらい司祭様は難しくてよくわからないことを言ってもありがたいけれど、商人がそんなこと言っても何のありがたみもないよ」


そうか、そういうものか。次はどんな風に話せばいいのだろう。




 なんとなく記憶にあった芝居がかった予備校講師のマネもしてみた。だがそれもあまり受けがよくない。


「ちょっとちがうんだよなあ」

などとアラン言っている。


アランの歌こそちょっと違うのだが、俺の授業もはたから見るとちょっと違うらしい。


「じゃあやってみてくれるか?」

アランに聞いてみる。


すると俺でよければというので、次の研修のときはアランに話してもらうことにした。




 アランには俺のノートを渡し、話してほしいポイントなどを説明する。そして次の研修ではアランが講義した。


アランは思い付きのようにいろいろと話を進める。相変わらず香具師のようだ。


あまり脈絡のない話の連続のようで、全部ではないが俺の指摘したポイントをある程度は押さえてある。


一つうまいと思ったのは、ある問題について、動機からいろいろな側面を話し、受講者をあおるように答えが知りたいと期待させて、それが最高潮に達したときに答えを出してすっきりさせるのだ。受講生の快感を覚えたような顔が印象的だった。

あとでアランに聞いてみた。


「いちおう気を付けているのは、全部話そうとしないこととか、授業はあくまでも動機づけと割り切ることなんかですかね」


やはりうまい人はいろいろ考えているのだと思う。





 それ以来、指導係はアランにしてもらっている。相変わらずチャラいのだが、それでも仕事ができるので割り切って任せている。


どうも口から先に生まれたようなところもあって、とにかく話がうまい。ただ黒板がないのでその点はプレゼンがしにくい。


もちろんアランたちはそんなものは知らないので、教会学校で司祭たちがするのと同じく壇上に立って声を上げている。ただなんとなく言い回しが芝居がかかっている。それに歌手だからか声の通りがいい。


とはいえ、俺にとっては黒板だけでなく大きな紙もないので視覚的な多人数向けのプレゼンテーションはやりづらく見えてもどかしい。



 黒板も大きい紙も用意できないが、テキストは用意できるように思う。


そういうものはこちらの世の中では見かけない。もっとも日本だって内部用のテキストなど外には出していなかったが。


なかったとしてもたぶん業務日誌をもとに構成できるような気がする。よそがそれを作れずにうちだけ作ればまた前に出ることができそうだ。



 もう一つテキストを作りたい理由がある。アランの講義はわりといいことを話していると思うが、ちょっと違うと思うこともある。


それはときどき見ていて口をさしはさむことがある。もっとも講義内容をコントロールしたいというわけでもない。


アランが勝手に話していることはそれはそれで面白いと思うのだ。ただそれを相対化するようなものがあってもいい。受講者にはいろいろな考え方に触れてほしい。


それからアランがいないときでもきちんと研修が回るようにしたいのだ。


アランが歌手として売れてやめるかもしれないし、旅行に行くかもしれない。商会が大きくなってアラン以外にも講師が必要になるかもしれない。そういうときのことも考えておきたい。



そんなわけでテキスト作りについて考えるようになった。



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