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商業ギルド(上)

 以前に店を持った時にギルドに加盟することになった。そうするとギルドの集まりにもいかなくてはならない。月に一回あって、正直言うと行きたくない。




 商会主ばかり集まっているため、中高年の男ばかりだ。11歳の俺はアウェイ感が強い。


それでも商業ギルドだけあって商売がうまくできているとか金を稼いでいることが尊重する考えがある。だからマスターのパストーリ氏は俺がメンバーであるのは当然だという。



 ところがそうは思わないのもいるようだ。


親から商会を継いだ者もいれば、丁稚から手代・番頭と出世してとうとうのれん分けしてもらって主人になった苦労人もいる。


いずれにしてもよそからやってきてあっという間に成り上がり、しかも自分たちの商売を脅かしている俺が気に入らない者は少なくない。会合では何人かがこちらを盗み見るようにしてひそひそと話す。




 そうは言ってもね。あんたたちが見放してきた、遠くから買いにくればいいと突き放してきた周辺部の住民相手に工夫して商売しているわけで、ずるい方法で客を横取りしたわけじゃないんだけどね。





 それでも他の商店主はまだましな方で、マルコの実家のドナーティ商会のマルキなど露骨に横柄な態度を取ってくる。おいおい、俺は取引先だし、あんたのところの儲けは少なくない部分はうちからだぞ。


しかもマルキは勘違いして「うちが卸しをやめたらシルヴェスタ商会などあっという間に倒れる」などと吹聴しているそうだ。


いやいやうちはお宅に頼らなくてもよそからだって仕入れることできる。あくまでマルコやマルクの実家を立てて、カテリーナさんにお世話になったから取引を続けているんだからな。


だいたいそんな放言が俺の耳に入っている時点で、下の者に見放されているとわからないのか。……と、そんなことを言えば角が立つので、頭の中にとどめる。そのうち関係が破綻するような気もするけど。





 議題の中で一体いつまで続くのかわからないくらい長い演説を続けている者がいる。内容はちっとも頭に入ってこない。何か言いたいというのはわかるが、相手に内容を伝えたいわけではなく、演説する行為自体が目的であるらしい。


話が散漫で、あちこちに飛ぶ。ちょっと前に言ったことがまた繰り返される。エピソードなど交えるが、それも陳腐だ。本人は気持ちよさそうに演説を続けているが、聞いている方はほぼみんなうんざりしている。


どうやら本人が有能で献身的で実に役に立っていると言っているらしい。聞いている方が考えることは「早く終わらないかな」だ。それも俺だけでないようだ。そんな演説が1人だけだったらまだいいが、複数だったりするので悪夢だ。





 しばらくして、前にギルドに加盟したときにうちから高額の加盟料を取れと主張したパラダ商会のパラダが提案をした。行商の制限だ。

「ときに、最近はあまりにも行商が多くなりすぎて、いろいろと問題が起こっています。無制限の行商に対する制限が必要でしょう」


さすがに看過できないので商売するのは自由であること、不便地の住民に支持されていることなどを主張する。

「いやいや、商売は自由にするべきでしょう。それに町の周辺部には買い物に行くのが困難な人たちがいて、その人たちは行商を支持しています。そもそもいろいろな問題とは何でしょうか」

「商売は長く続けていないとなかなか信用がおこりませんからな」


これにも反論する。

「それでは新規の開業はできなくなりますね。うちはまだ1年ほどですが、ずいぶんとお客様には支持されて常連もついています。これは信用されているように思います」


「周辺部の住人の方も中心部まで歩いてくれば健康が保てますな。それに街中の住民との交流も図れます」


あまりにもばかばかしい。それでもまた反論する。

「それなら中心部の住民も遠くまで歩いて買い物に行って健康を保った方がいいし、周辺部との交流も図れることになりますね」



パラダの主張はあまりにもくだらないのだが同調するのが数人いる。


後でギルドマスターのパストーリ氏に聞くと領主の取り巻きだそうだ。


ここクラープ町は東西に街道が伸びていて、西に3日ほど行くとクルーズン市につく。逆に東に2日ほどのところにこの領の領都のゼーランがあり、領主ゲルハー子爵がいる。


ゼーランにはゲルハー子爵の取り巻きの商人たちがいて、その分家筋がそのパラダたちだそうだ。


日本でも政治家と経営者の関係が怪しく、変な陳情やおかしな利益誘導や介入がまかり通っていたが、こちらはますますだ。だから悪代官と悪徳商人みたいな関係がまかり通っている。




 ゼーランは領都などと言ってもクラープ町より2回り大きい程度だ。田舎の県庁所在地が県都などと言っても東京の区や市より人口や経済規模が小さいのに似ている。


ゼーランでの領主と御用商人の癒着ぶりはひどいらしいが、そのミニチュアがクラープ町でもゲルハー子爵の手下の町長と分家筋の商人で行われているという。


パストーリ氏は逆にクラープ町の土着派のようでパラダたちの行いを苦々しく思っているようだ。




 そこでいろいろ聞いてみるとドナーティ商会のマルキはパラダたちの子分のようになっているらしい。


マルキの家は領都ゼーランとは関係なく、もともとこのクラープ町で創業したはずだが、マルキの代になって領主のお近づきになろうとパラダたちにすり寄って子分にされたらしい。


外部の領主派と土着派があるなら、ここで創業したドナーティ家は土着派になるのがふつうだと思うのだが、強い者につきたいのだろうか。






 またさっき同調していた内の1人がうちの商会だと直接は言わないが明らかにそれを意識して、おかしな商売男や商売女みたいのを使って客を扇動しているなどと言い出した。ずいぶんな話だ。


アランの取り巻きはまわりが勝手にやっているだけだ。歌もあれくらい人気が出ればいいのに。最近は取り巻きが歌は歌わなきゃいいのになんて言っている。下手じゃないんだけどな。


シンディの人気もたまたまチンピラを撃退したときに妙なファンがついてしまっただけだ。でもふだん無敵のシンディがファン相手となると目を白黒させているのが面白い。


顔だけならカミロはアランより美貌だと思うが、さっぱり人気が出ない。宇宙について語り合えないと相手するのが難しいからなあ。ジラルドはとにかくふつうだ。特にどちらもない。


リアナとエミリは内勤であまり外に出ないからそんなこともないが、エミリは出したらセレル村のときみたいにエロ親父が付きまとうのかもしれない。


……とうちの個性的なメンバーを思い出してからパラダを見ると、そりゃあんたみたいな高圧的な人を見下したような物言いの人間じゃ、客も逃げるだろと言いたくなったが、やめた。


「具体的にどこの誰が客を扇動しているのか、知らせてもらえますか」

「それは、ねぇ……。まあそういうのもあるという話で」


なんともとりとめのない話だ。


「もう少し実のある話をしてもらいたい」

マスターのパストーリ氏が言ってこの話はおわりになった。

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