村での配達(下)
村本体内や集落内の使いは安いので相手にしない。その間の長距離の駄賃が高いものだけ狙う。各集落にいる教会で見知った人に頼んで看板を出してもらう。
週に7の曜日があり、月曜日から金曜日ごとに特定の集落に行くことにする。そこで週に1回集落の中心で午後の決まった時間に届け物や買い物依頼を回収する。
届け物なら一週間以内に届けて翌週受け取りを返す。もちろん貴重品やこわれやすい物や足の速い食品などはお断りである。
実際の仕事は、集落の手前まで歩いていき、人目につかない茂みに入りチートを使いクロのところに戻る。
たまにクロが外を出歩いているときは教会に連れて帰り、ホールの出口から集落に戻り、また集落から教会に戻る必要があった。
教会から箱付きの荷車をもってきてホールに入り、人がいないのを確認してから出て、集落に入る。
届け物や買い物依頼を回収して、集落の出口から出る。また人目につかないところでチートを使い教会に戻る。ここでもクロが出歩いていると面倒だ。
村の広場でもやはり集落への荷物の依頼を引き受ける。別の集落への配達はほとんどないが、あれば次にそこに行くときに持っていく。
集落から村本体への配達物については村本体内の相場で子どもを使って教会から配達先に配達させた。
買い物は教会のすぐ近くなので、自分で行くことにする。
この仕事で俺は伝票を作ることにした。荷物を1つ1つ運ぶわけではないので、どれがだれのものかわからなくなってしまう。
引き受け日時や依頼主と届け先の住所氏名を伝票に控え、多数の荷物があっても管理できるようにした。
実は上の年代では読み書きができない人も少なくないため、伝票は自分で書いた。また地図を持って行って届け先に間違いがないか確認するようにした。
結局多数の荷物をまとめて引き受けることができるようになり、かなり効率的に儲けられるようになった。
1つ1つは数百ハルクの仕事だが、まとめているので1日1万ハルク近くとなる。現金収入の少ないこの村では大人でもここまでの所得はない。
これはこれでよいこともあった。明らかに届け物の取扱量が増えた。届けたいけれども頼みにくいから頼まないケースが多々あったといえる。
料金はいままでのお駄賃程度だがまとめて効率的に仕事をすることで、子どもとしてはかなり稼ぐことができた。
ただやはり副産物の方でまずいこともあったようだ。子どもに仕事を頼むおばちゃんたちは、手紙や荷物を届けるよりも、子どもに構いたくて頼んでいる節もある。
だから効率化してシステマティックになると、その機会がなくなってしまう。子どもにおやつを与えて話をするためのダシのような仕事も多々あったのだった。
さらに俺が効率化した結果、他の子どもの長距離の仕事を奪ってしまったこともあるようだ。
それはときどきなくしものがあったり毎回行先を説明したり値段の交渉をしたりするよりは、ほぼ事故はない上に届け先もすぐに把握され値段も明示されていることを楽だと思う人も多い。
ただそのために村で子どもを育てる機能はなくなってしまった。
他にも問題があった。せっかくブラックから解放されたというのにまた毎日勤務になってしまったのである。週5回定時に雨の日でも行かなくてはならない。
配達は子どものバイトだが、これは気が向いた時だけやっていればいいものだった。もちろんそのために小遣い程度しかもらえないのであるが。
1日の実働時間は2時間程度でホワイトとはいえ、毎日というのは子どもにはつらいものだった。だいたいシンディやマルコは遊んでいて、一緒に遊べないのかと恨めしそうである。
2人は遊ぶことができて恨めしいのは俺の方だが、こちらが悪いのだから仕方ない。
最後に決定的な事件が起こってしまった。チートばれである。これについては後で話す。ともかく事件によってこの商売を続けるのはさすがにはばかられるようになった。
それでもこの商売を始めた結果、配達はなくてはならないものとなった。もう村人も集落の人も配達があるものとして、ない時代には戻れなくなってしまったのである。
ただ結構な稼ぎになることが分かったため、子どもの使いでなくても馬と荷車を持っている家に頼んで村の中心と各集落の中心間の輸送を引き継いでもらうことになった。
結果として子どもたちから、長距離の仕事を取り上げてしまったことになる。いちおう馬車は村や集落の中心までしか来ないので、そこからのラスト1マイルではないが、各家から中心までラストの5分か10分の仕事は子どもたちのものとなった。需要が喚起され子どもの仕事が増えたのでトントンかもしれない。
村人に新たな便利をもたらし、新たな仕事を作り、俺には子どもには過ぎる数十万の小遣いをもたらして、この仕事を終えることになった。
1つ辞めてよかったと思うのはクロのことである。たまにだがクロが出歩くのにイライラしていた。せっかくクロには無敵だの状態異常無効だののチートがかかっているのだから、自由にしていて欲しい。神はようやくあれは愚かさに気づいたのかとクロ相手にこぼしていた。
その言葉だけ見ればいかにも神らしいが、実際は猫可愛さにそれに没頭しない俺への非難に過ぎない。十分かわいがっているが、神から見ると足りないようだ。自分の推しに入れ込まない友人にイライラしているようなものだ。




