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シンディと町の道場(上)

少し商売から離れます

 シンディは毎日のように道場に通っている。

通っている道場は、さすがに町だけあって、セレル村のレナルドの道場より大きい。


道場主で師範もレナルドと違い兼業農家というわけではなく、専業のようだ。名前はカスパー・エルスターという。レナルドの兄弟子にあたり50前で筋肉質でごつい。




 シンディに連れられて初めて道場に行ってあいさつしたときのことだ。


「君は……なんというか……落ち着きがあるね」


なんというか、言い方に気遣いがある。本当は疲れていそうとでもいいたいのではないか。


あるいはカスパー相手にものおじしていないからおっさんぽいと言いたいのかもしれない。


カスパーはかなり迫力があるが、圧のあるおっさんはさんざん相手したからなあ。別に対抗できたわけではないが、やり過ごす術は何となく体感している。


結局いつものことだが中身がおっさんだからだろう。




 カスパー相手に正面から闘ったら絶対に勝てないが、ギフトを使えばたぶん俺の勝ちだろう。


それはレナルドとスコットがいたとはいえ、オークだって相手にできたし、その戦略はいまでも有効だ。


ただし相手を始末できるならともかく、一度使うとチートばれして後でまずいことになるから使えない。




 俺は週に一回道場に付き合わされる。正直な話、剣術はあまり得意でないし、戦うにしてもギフトを前提にした戦いをしたいのだが、シンディが許してくれない。


「だって、ギフトはあまり人前で使えないのよね。だったら使えない場面も多くなるじゃない」


まったくもってごもっともな理屈だと思う。もちろんシンディの場合は、先に道場に連れていきたいがあり、それにうまく合う理屈を考えただけだ。


いやシンディに限らず世の中の理屈は全部そんなものか。先にもくろみがあって、それを正当化するために理屈をつける。




 シンディは道場では生き生きしている。だいたい同年代相手には向かうところ敵なしだ。それどころか少し年長相手でもかなり優勢だ。


さすがに高弟や師範代クラスとなると敵わなくなるが、それは体格差の部分も大きい。今後シンディが成長すれば、間違いなくひっくり返るだろう。そりゃそこまで強ければ楽しいだろうと思う。



 俺の方はというと、いちおう決められたことはこなすが、それ以上積極的にはならない。


こちらの世界では体は子どもなんだからあきらめずに上達を目指してもいいと思う。だがやはり何となく精神がおっさんなんだ。


そういうのを求めるのは薄っぺらいものかもしれないが、すぐに役に立つような、例えば逃げ方など知りたい気がする。


努力を積み重ねて騎士になりたいとか戦場で一旗揚げたいなどとは間違っても思わない。そういう考えが顔に出ているのか、シンディは呆れている。


「もう少し強くなりたいと思わないの?」

「いやまあ、強くはなりたいんだけど」

「だったらもっと稽古しなさい!」

「いや、あまり稽古しないで強くなりたいんだ」

「まったく」




 道場主カスパーにはアレクシスという息子がいる。愛称はアレックスで俺たちより1つ下だ。親と違い線が細い。


若いころ痩せがちでも大人になるとごつくなる例はいくらでもあるから、そういうケースなのかもしれない。


この息子がちょっと困ったことがある。別に不良だとかそういうわけではない。9歳で不良というのもあまり想像がつかないが。




 アレックスはいつもシンディに試合を申し込んでいる。


「試合をお願いしてもいいですか」

「いいわよ」


シンディは相手が泣き出すとかそういう面倒がない限り試合の申し込みは全部受けている。


俺なんか全部断りたいくらいなんだが。そして試合の結果は……、案の定というかいつもの通りというか、シンディの勝ちだ。


シンディは終始優勢で、アレックスにはいいところがない。よく試合をする気になるなと思うくらいだ。


もっとも同年代ではシンディが圧倒的に強くて、その次がだいぶ離れてアレックスだ。その下もずいぶんと実力差がある。


だから同年代と試合しようとするとシンディしかいないのも確かだ。ただどうもそれだけでもないようだ。





 とうやらアレックスはシンディに憧れているらしい。それは親同士が兄弟弟子で年も近く、それで自分の目指す道で圧倒的に強いとなるとそういうものかもしれない。


それに対して俺の方はモブ扱いだ。いやモブ扱いだったが正しい。はじめはたいして強くもなく熱心でもない俺のことはその他大勢扱いだったのだ。


ところがシンディがやたらに俺に構う。それはシンディは俺の幼馴染だし、秘密契約で言えないがギフトで助けられた仲だし、いまは商売の雇い主だ。


そういうわけで道場でも俺と一緒にいることが多い。だいたいみんなシンディとは一緒に稽古したがらない。ぎたぎたにやられるからだ。


俺もしたくないのだが、付き合わされてやはりぎたぎたにされる。いや最近はうまく負ける方法を身に着けつつあって、痛い目に合わないうちに終わりになる。


アレックスから見るとあこがれのシンディと気やすく話していて、しかも武術にまじめでない俺は、目の敵のようだ。




 何となくアレックスから邪険にされていることはわかるのだが、その辺は大人の余裕で俺の方からそれなりに友好的に対応する。


これもおっさんの処世術だ。アレックスも根がまじめだし、だいたい道場主の息子だけあってあまり品のないことはしてこない。


この年代で道場に通っていると、少し強かったりすると露骨に弱い者を見下すのもいるが、アレックスはそういうことはしない。


ただまじめに不愉快そうにこちらに絡んできて、稽古しろだの正論をまくしたてる。

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