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食品工場(下)

 製造量が増えてフランチャイズ化も進めることにした。前から競合の店がうちの作った軽食と似たようなものを出していた。


そうされることは容易に想像ができていたので、あらかじめクルーズン市の有名シェフのレオーニ氏に監修してもらい、かなり秘密の部分があるレシピを作ってもらった。


だから味は断然うちの方が上だ。とはいえ、うちが売りに行ける範囲は限られているし、競合の店の方が安い。それでそちらもそれなりには売れているようなのだ。




 あまりチェーンのようなものを持ち込んで、何でもかんでも自分のコントロール下に置くのはよくないように思う。一方でまだ売れる余地はあるのに手をこまねいているのもどうかと思う。


それでフランチャイズ用の半調理品が作れないかとリアナに話を振ってみる。


「前に言っていたフランチャイズをしようかと思うんだけど」

「そんなこと言っていたわね」

「それで重要な秘密はこちらで持っておいて、それで相手がうちと同じ味を出せるかなんだけど」

「うーん、できるかもしれないし、できないかもしれない」


何か思うところがあるのかな。前だったら、調理のことならいくらでも首を突っ込んでいたのに。


「たとえばさ、後は焼くだけのものを作って配達するとか」

「それはわかるんだけど、どこもみんな同じ味になっちゃいそうで」


確かにリアナの言うことももっともだ。どうしてもこちらのレシピに染め上げてしまう可能性がある。


「確かにそうなんだけどね。ただうちに買いに来れない人はおいしくないものを食べているわけで」

「まあそうよね」

「そのうち、どこかがうちと違う美味しいものを作って、新しいものを作ってくれるよ」


なんとなく無責任なことを言ってその場を収める。





 お好み焼きの方は粉の配合とソースは完全に秘密だ。漬物を使っていることなどは食べる人が食べればわかるだろう。とはいえ競合の店はそれも考えてなさそうなところもある。


レオーニ氏にはすでにフランチャイズの許可はとってあるが、改めて秘密にする範囲の確認を手紙で行う。そうすると、またこちらで秘密にできる手順を考えて送ってきてくれた。




 機械仕掛けなども導入する。おやきや餃子の皮など、生地の塊からちぎって手で目分量をちぎって伸ばしたりしていた。


だから慣れた人ならいいが、慣れない人だと大きさがまちまちだったりする。売るときにあれは大きいとか小さいとか起きて欲しくない。そういった量のコントロールと、手間の削減のために機械を作る。


まず上が開いた長細い長方形の木箱があり、箱の内側には一定間隔で線が引いてある。その箱に打ち粉してから生地を詰めて、線の部分を薄い金属の板で切っていくと一定の量になる。


それからなめらかで少しへこみがならんだ木台の上に切った生地を載せていく。上から丸みのある突起が並んだ判を押すと、一斉に餃子の皮ができるようにする。


お焼きの皮も似たようなものを作る。


これらの機械はまねされるかもしれない。ただある程度以上たくさんつくるところでないとこういう機械は導入できないように思う。




 フランチャイズ先探しは、まず競合店に話しかけてみる。競合店が商売をしているところに向かう。正直、うちと違って売れ行きは良くないようだ。


「こんにちは、ちょっとお話よろしいですか?」

「はい、何にしましょう」

「実は私はシルヴェスタ商会のものです」

「なんだ? 何かうちの商売に文句があるのか?」

「いや、軽食を売るのは勝手にしていただいて結構なんですが、ちょっと別のお話がありまして」

「ほう、なんだ?」

「実は、うちの材料を使って商売をしないかと」

「は? なんだそりゃ」

「フランチャイズと言いまして、うちの材料と看板を使って商売をする契約ができないかとお誘いしています」

「それでうちに何の得があるんだ?」

「あ、こちらおあがりください」

といってお好み焼きを渡すと、相手は食べはじめる。


「悔しいけどうまいな」

「ありがとうございます。それでフランチャイズにするとこれが作れるようになり、売価も売り上げも上がります」

「ほう。それはいいが、うまい話だけじゃないよな」

「ええ、それは。まずそちらで今仕入れているより高くなりでしょう。それからレオーニ氏の看板の使用料も申し受けます。さらにうちの味を守るために初めの研修と年に一度などの研修を受けてもらいます」

「どれくらい高いんだ」

「材料費と売値のちょうど間くらいでしょうか」

「まあなんともえげつないな」


確かにえげつないとは思っている。


「こちらもかなり研究を重ねて作ったもので、いろいろ費用も掛かっています」

「まあそうなんだろうな。他の店のものよりうまいもんな」

「それにこちらで半分は調理するので、そちらはずいぶん楽になります」


相手は少し考えこんで

「まあ、考えておくよ」

と応じた。



 10カ所ほど声をかける。けんもほろろに返されたところもあったが、ほとんどは一応考えておくとのことだった。


1週間ほどして、もう1度聞きに行く。そこで契約したのが2件あり、後になって3件ほど契約した。




 商業ギルドあたりで、フランチャイズの募集を始める。ただし既存のうちのフランチャイズ先フランチャイジーがある地域については募集しないことにする。


売れている地域と見るや、フランチャイズ先があるのに競合する直営店をぶつける恐ろしいチェーンも前世にはあったが、そういうことはしない。


ただ既存地域は出さないというルールはフランチャイズ先に対する信義でもあるが、競争でもある。

ある地域は先に取ったもの勝ちだ。




 募集していくつか手を挙げた店があった。その中にはうちの誘いを断ったコピー品の店の近くもある。


先に声をかけたし、競合しても仕方ないよね。研修は中心部のうちの飲食店で行う。そちらももう工場からの半調理品が多い。


うちの飲食店と同レベルになるように研修を行ってから、フランチャイズで出してもらう。


ただし手抜きをさせると困るのでときどき偵察に行くことにする。それは契約内容に入っている。うちやレオーニ氏の看板を掲げてダメなものを出されても困る。




 フランチャイズ先が増えると、流通ルートも組みなおさないといけない。そういうパズルはカミロの得意なところだ。面倒なのにいろいろ考える。


ただ輸送業者が余るほどいればいいのだが、この町はそうでもない。また余裕がなくなると困るので、こちらでもまたロバと荷車を用意することになった。


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