食品工場(上)
軽食の製造の方でも売り上げがよすぎるので、リアナとエミリの2人ではとても足りなくなった。
「店の方でもっと売れそうだって連絡が来ているけど、まだ作れそう?」
「おーけー、何とかするぞ」
「ちょっと材料も足りなくなってきているし、作れるかどうかわかりません」
リアナは強がっているが、エミリはわりと冷静だ。よくよく見るとリアナの方も疲れているのか、体の動きが悪い。ここの中心街の製造所の直売の方も客が多い。
非常時に無理をさせるのは仕方ないが、通常時に無理はさせるべきでない。いやむしろ通常時に余裕があるから非常時の無理ができるのだ。
「ちょっと今のままでは回りそうにないね」
「いや、できる!」
「今日だけじゃなくて、今後もずっと増やしてほしいし、新メニューも作ってほしいんだ」
そう言われてリアナの方も顔が曇る。
「人を増やそうかと思うんだよね。それにここは手狭だからもう少し別の場所に移そうかと」
そこで店の業態を変えることにした。中心部の少し裏手で製造を中心にして、暇な時間に店頭でテイクアウトを売る形だったが、手狭でいまの需要には見合わなくなっていた。
中心部の直売店は製造をやめ客席もおいて飲食店とし、リアナかエミリが時々見にくる程度で、別の店長とバイトを数人雇って回していくことにした。
製造部門は少し南の郊外に移し工場にする。そちらは元より3倍くらい広いが、郊外なのでそれほど賃料は高くない。
工場ではやはりエミリが工場長となり半調理品まで仕立てる。ただどちらもバイトだけではとても回らないので、正規採用の職員もおく。
バイトは短時間だし責任や難しい仕事もないしいつ休んでもいい形だ。長時間拘束して責任を持たせて難しい仕事をさせるにはそれなりの待遇にしないといけない。
だいいち引き抜かれてしまう。どこぞの国のようにバイトに経営者マインドを求めるなど馬鹿もいいところだ。
人が余っていた時代はそういう馬鹿なことを言っていても通用していたのだろう。
評論家連中でそれを吹聴して稼いでいた連中などがいたら、過去の発言をほじくり返してあげつらって破滅に追い込んだ方がいいように思う。
そうして工場を作り、半調理品を製造することにした。そのおかげで東西南北にある各支店でも軽食を売ることもできるようになった。
ただリアナもエミリも店で半調理品の仕上げだけでは満足していないようだ。リアナは大都市の名店で修行してきたのだからそうだろうし、エミリもそれを学びたいのだろう。
がちがちのマニュアルチェーン店を作りたいわけではないので、適当に裁量で自由にやってもらえばいいと思う。
あの日本のチェーンのがちがちマニュアルももしかしたら客の方が文句を言うからああなっているのかもしれない。
実は日本のコンビニも大手の力の強いところはわりとがちがちに締めあげるが、そこまで力のないチェーンはわりと店の独自性を許している。
リアナやエミリには新メニューを工夫して作ってもらいたいくらいだ。ただ食中毒を起こすとかあまりにもまずくて店の評判を落とすのだけはやめてくれればいい。
そんなわけでリアナには裁量を渡している。2か月に一度くらい新メニューを考えている。もちろん先に俺たちが試食する。
「こんなのつくってみたけど、どう?」
粉を溶いた生地を薄焼きにして、肉やチーズや野菜をおきソースをかけてからくるんでいる。これはブリトーじゃないか。おいしいに決まっている。
「それはうまそうだ。さっそく食べてみたい」
「ちょっと待っててね、人数分作るから」
「熱いうちに食べた方がうまいから、できたものをくれ」
「食い意地が張っているわね、ほら」
と渡してくれる。
「フェリスさんたら」
エミリにとっては村で年下のヒーローだったが情けないところを見せてしまう。
シンディ・マルコ・アラン・ジラルド・カミロも食べてそれぞれ好評だ。もちろん全会一致でゴーサインが出る。
店はコンビニっぽいところと違うところがある。
もともとは街中の店より同じものの値段が少し高い店だった。それは郊外でそうしないと店が成り立たないので仕方ない。
日本でコンビニを見ていたから近ければ高くても買う人はいると思っていた。そこで軽食を売って、手紙や荷物の集配を行うようになり、ますますコンビニっぽくなった。
コンビニと違うのはまず開いている時間が限定されていることだ。これは郊外なのでやはり仕方ない。あまり人が来ない時間に店を開けたくない。
2020年前後は日本でも24時間営業が見直されてきているし、田舎ではますますそうだ。
それから塾をしたりしている。この辺は成り行き上そうなったものだ。




