45. 火魔法の練習
火魔法の練習もした。ある日のことだ。
「今日は何をしようかね」
「師匠、火魔法をしてみたいんですが」
「おや、火魔法を使ったことがないのかい?」
「俺はかまどの着火くらいはしたことがあります。だけどそれ以上の大きいのはしてませんね」
マルコもその時はいてこたえる。
「僕もいちおう火はつけられます」
「そうかいそうかい、たまにね全く使ったことがない生徒もいてそれだと面倒なんだよ」
火魔法は指先から火を出すのでやけどにつながりかねない。結構面倒なコントロールが必要になるのだ。
火魔法はまず小さな種火が必要だ。まずライターくらいの火をつける。ただし指先を保護しないといけないし、少し離さないといけない。
近くに引火するようなものがないことも確かめないといけない。この辺は子どもが初めて習うときにうるさく言われる。
特に子どもなど火を大きくすることばかりしたがるので、あまりに小さいうちは火魔法を教えない親も多い。
ただ日本に比べると火を使う機会は多いので、それなりに子どもも火魔法を使っていたりする。
最初の火をつけるところはけっこう難しい。俺も子どもの頃はかなり苦戦した。なんというか火がついているイメージを持ちつつ指先に集中するようなことをするのだ。初めはロレンスが火をつけるところをマネするように言われて試してみた。
多くの場合に火のつけ方は子ども時代にならい、時間があるので何日もかけて挑戦することができる。ただ俺はその時はすでに中身がおっさんだったので、なかなかつかないことにイライラしていた。
そのあとは火を維持しないといけない。これも結構面倒だ。維持できないとせっかくつけてもすぐに消えてしまう。
ただ子どもだと維持できるほどの魔力量がないので、すぐに燃えやすいものに移し替えないといけない。
生木など燃えにくいものだと火がなかなかつかず、消えてしまう。だから火を使う場面では燃えやすいものを用意しておく。
一度できてしまうと、後は感覚がつかめてつきやすくなる。数日もするとつかないことの方がほとんどなくなる。心理的にはいくつかのステップを踏むのだが、慣れてくるとほとんど自動的にできる。
なお詠唱についてはこの自動化した心理的な回路を手早く起こすのに便利な起動装置のようなものだ。だから詠唱がなくても魔法が使えないわけではないが、かなり面倒になる。
「じゃあ、火をつけてごらん」
そう言われて、俺とマルコは火をつける。
「おや、ちゃんとしているじゃないか」
「それで後は大きくする方法を教えてほしいんですが」
「火の調整はできるだろう? やってごらん」
そう言われて少し大きくする。そうは言っても一回り大きくなったくらいだ。
「できるじゃないか」
「それはできますが、もっとずっと大きい火をつけたいんです」
「それは外部の魔力を使わないと無理だねえ」
なんとなく答えはわかっていたが、やはりそれか。
けっきょくそのまま体内の魔力を使い続けるとあっという間に消耗するので、魔石か魔法油からの魔力にシフトする必要があるのだ。
「やっぱりそれしかないですか」
「まあ、それしかないねえ。ただそれだけじゃないよ」
「と言いますと?」
「大きい火は小さい火よりずっとコントロールが難しいからね。外から魔力を供給しただけではやけどしかねない。それをコントロールする技術も学ばないといけないよ」
それだけじゃないと聞いて、何か楽な方法があるのかと思ったら、逆に面倒があるだけだった。とにかくこの世界は面倒だ。
そういえば漫画『ドラえもん』でのび太君が魔法のある世界に憧れて、それにしてみたら、夢のようなことはなくてやはり落ちこぼれだった話があったように思う。
魔石や魔法油から魔力を吸収するには逆の手かあるいは体のどこかで触れている必要がある。
練習用にはくず魔石を使う。魔力量が少ないので持ち歩きには不便だ。そのために値段がひどく安い。だからどんどん使っても問題ないのだ。
そこで右手は体内の魔力で火をつけ、左手は魔石か魔法油につけたまま、魔力を吸収して吸い上げ、右手に移す。その際に吸収量と右手に移す魔力量をコントロールする。
そういうわけで小さな火を少しの間だけつけるならさほど面倒もないが、大きい火をつけたり、小さくても長い時間つけておくためにはいろいろしないといけない。
魔石や魔法油の魔力へのシフトはできるだけ早くした方が体内の魔力を使わずにすむ。
魔法を立て続けに使うとなると少しでも魔力は温存しておいた方がいい。上級者となると種火など火花程度であっという間に魔石の魔力へシフトしてしまうという。
なお魔石から魔力を吸収するのもやはり技術が必要だ。技術がないと無駄が多くなったり、スムーズに十分な量の魔力が吸収できない。
それに吸収量がおおすぎてもまずい。体内を回って、足から地面に抜けてしまって無駄になるからだ。
さらに火を大きくしたり小さくしたりするのもかなりの技術だ。一度に大きくすると火がおかしな形になってやけどをしかねない。
攻撃するときなどは相手の周りに魔力で引火状態を作り、自分の種火と細い導火線でつなげて火を付けたりする。
上級者だと火の形をいろいろ変える技術もあり、ときどき曲芸などでもしているが、あれも練習のたまものだ。
もちろんそれらは術者に延焼するような場所では使えないし、とにかくいろいろ面倒なのだ。
あーあ、火魔法かっこよさそうだったのに。そうは言っても練習は続く。火魔法自体だけでなく魔力の出し方のコントロールにもいいらしい。
初めに習った精神集中とイメージによりつけた火を大きくしたり小さくしたりする。
「フェリス、前より少し大きくなっているよ」
そうか火が大きくなっているのか。
「わっ、あちちちち」
気づくと手の方に火が向かってきている。
「話しかけてごめん」
「戦いのときは攻撃が来たりするからね。これくらいの動揺で取り乱してたら仕方ないよ。ほれ、早く回復魔法をかけな」
ごもっともなことで、ありがたい師匠だ。
そんなことを繰り返しているうちにバレーボールくらいの大きさの火は出せるようになった。これなら曲芸か何かできそうだ。だけど戦いで使うのは少し怖い。
アランのコンサートの横でファイヤーダンスか何かできそうだな。ただそうすると今度はダンスの練習か。シンディなら剣舞ができそうだけど、あっちは魔法が使えないし。
火魔法を覚えて、かまどの火付けはずいぶん楽になった。たきぎなどすぐに火が付くわけではないから、少し大きい火が持続的に持てるとつけやすい。
とりあえずそれができるようになったのと、魔力のコントロールがうまくなったかもしれないので満足しておこう。
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