魔法の手習い(上)
次のバーバラのところでの練習でも体の力の抜き方だった。前よりは少し力が抜けたような気もする。
「こんなかんじでどうでしょうか?」
「手足が重いとか自分のものではないような感覚があるかい?」
そういう感じがあることもある。
「それを感じることもあります」
「いつでもすぐに感じられるようにするんだよ」
「前に言ったことはしたかい?」
「はい、してみました」
「じゃあ今度は体のあちこちの感覚を感じてごらん。よくよく感じてみるとこわばりがあるところがわかるよ」
しばらくどんなものか試してみる。そうすると確かに体にこわばりの部分があることがわかる。
「どんな風になればいいですか?」
「なにか自分の体でないような感覚だね」
「なんとなくそうなっている気がします」
「いいかい、どんな時でもすぐに力を抜けるようにするんだよ。立っているときでも、座っているときでも」
体を弛緩させるとか、肌の温度を感じるとか、そういうことをして受け身で注意が集中した状態を作る。
魔法の練習についてバーバラが指導者としてついているのだが、ものすごく細かく指示してくれるわけではない。自分で工夫しないといけないのだ。
また練習は何か一つのことができたとしても、それがスムーズにできるようになるまで何度も繰り返さないといけない。
小さい子の指導のようにこれだけやっていればいいと言ってくれれば簡単なのだが、そういうわけでもない。10歳など十分小さい子だと思うが。
練習内容を自分で考える必要があり、それが本当に正しい道なのかそうでないのかわからないのだ。
そしてその練習は間違っているかもしれないが、正しいとしても続けないと成果は出ない。
「こんな感じでいいでしょうか?」
バーバラに聞いてみた。いちおう金払って指導を受けているわけだし、不安があるから教えてほしいのだ。
「まあ悪くないんじゃないか?」
「悪くないというともっといい方法がある?」
「さあねえ」
「師匠なら教えてくれても……」
「みんな違うからね、自分でつかまないといけないよ」
やはり自分でしないといけないのか。
光魔法は得意なつもりでいた。ただ光魔法もうまいへたがあるようだ。
「ロレンスはずっと明かりをつけていてもちっとも魔力切れにならないのに、俺は割と早く魔力ぎれになってしまいます。魔力量が少ないのでしょうか?」
「まだ子どもだからそれもあるかもしれないけれど、光魔法の技術の差かもね」
「どういうことですか?」
「魔法を使うときにね、うまく目的のものだけ出すのか、それとも余計なものまで出してしまうのかがあるんだよ」
それには何となく心当たりがあった。前世で電灯を蛍光灯からLEDに変えたときにむしろ明るくなったのにかなり電気代が下がったことがある。
あれは蛍光灯が電力から光以外に熱を発生させているからだった。LEDの方は熱の発生がごく少ない。
それと同様に魔力から光以外に熱など発生させてしまうと魔力切れが早いようだ。ただ電力との対比でいうならば本来は魔力量が切れたというののが本当だと思う。
なるほど魔法の技術が未熟なので熱など余計なものを出してしまっているかもしれないのか。
魔法技術が上がればほとんど光だけを出すようにして、長時間使っていても魔力量があまり消費されないようにできるだろうな
光魔法にもいろいろな使い方がある。多くの場合は明かりのように使う。
便利なのでごく簡単な光魔法を使える人は多いという。ただ簡単だけあって懐中電灯のようなものだ。
その次にいま俺が使っているような部屋の明かりのような使い方だ。
それから広範囲を照らすようなやり方もあるが、これは魔石などの外からのエネルギー供給が必要だし、また長時間なら外部エネルギーに加えて魔道具などを使う必要があるという。
もはやそうなると電灯に近い。道具を使わずにずっと精神集中をしているなど疲れて仕方がないとのことだ。他にもフラッシュのように敵を目くらましすることもできるそうだ。
しかしなんというか世知辛い。魔法が使えるようになればもっと夢のようなことが何でもできるものだと思っていた。結構面倒な技術的な部分が多い。
ただ業火を起こしたり地形を変えたりする魔法が使えるようだと世界が安定的に成立しないようにも思うのだ。
ある意味今の状態がもっともなのかもしれない。あのいまいち全能っぽくないむしろ煩悩じゃなくて凡能の神も物理法則に従っているだけなんだろう。
とはいえこんな世界でも週に20時間だけ働いて、猫もふ付きの生活というのも悪くないと言えば悪くない。
練習を続けていると前より明るくなったらしい。自分ではあまり気づかなかったが、マルコが前よりずいぶん明るいと言ってくれた。
前は本を読むときに見づらかったところが見やすくなったらしい。そう言われてみるとそうだ。
ついでに確かにつけられる時間も長くなった。蛍光灯がLEDになったようなものなのだろう。




