表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/634

郵便と宅配(上)

 はじまりはシンディの一言だった。

「昔、フェリスは手紙を届けたりしていたわよね」


「子どもがよくするバイトだよな」

アランもしていたのだろうか。


「そうそう、フェリスは毎日仕事で、ちっとも一緒に遊べなかったよね」

「そんなに毎日していたのか」


ふつうは子どもは気が向いた時だけ、お使いをする。


「フェリスのやり方はかなり変わっていたよね。親父が感心していたよ」

そうかマルクが感心していたのか。


「あれはここでもしてみたらいいじゃない?」

「そうだね。こっちでも必要だと思うよ」




 セレル村ではしていたが、確かにこちらでもあの郵便や宅配が必要だと思っていた。村でもそうだったがまだ専門の会社はない。


文字を書くのはいまの子ども世代の場合は時代の雰囲気でそうしないと稼ぎのいい仕事につけないと習っているが、上の世代は苦手だったりする。


だから手紙を書くことが少ない。物の輸送も付き合いが狭いために遠く離れたところにものを送る発想が少ない。


そのせいか郵便や宅配が業としてあまり発展していない。




「フェリスは村ではどんな風にしていたんだ?」

「俺がする以前は子どもの使いであて先を言うのも面倒だし、物が壊れたりなくなるのもしょっちゅうあるし、値段も不透明で毎回交渉だったんだ」

「それはいまもそうだな」


そうクラープ町ではいまもそうなのだ。


「だけど毎回交渉というのも面倒だろ。それに送り元の大人が子どもを丸め込んで都合よく値段を設定してしまうこともある。

だけど、そういうことをされる子どもは運ぶにもトラブルが多く、結局送り元は損していたりしたんだ」


「まあ、そりゃそうだよな。そんなうまい話はないわけで」


「それで俺は伝票を使って管理して、荷物破損時は補償をつけて、しかもあらかじめ明示した価格したんだ。

もちろんそれまでより少し高くしたが、それでも注文がものすごく増えたよ」


「みんなリスクや面倒が嫌だからね。安心できるなら、その方がいいんだろうね」




「それで儲かっていたのか?」


「うんけっこう儲かっていたよ。それまでは1つ頼まれたら1つ持っていく形になっていた。だけど行商ついでにまとめて運ぶことにしたんだ。

その代わり、1週間くらいかかることもあったけどね、それはあらかじめ言っておいて。だからずいぶん効率がよくなった」


「はあ、なるほど、うまいこと考えるな」


「儲かる仕事のパターンの1つは人の面倒を引き受けることだよね。

フェリスがうまいのは多人数分をまとめて、面倒を少なくしたところだ」


そう、その通り。それも前世知識だけど。




「そんなうまいことやっていてなんでやめたんだ?」


1つの理由はチートばれだが、チートのことはまだアランには言っていない。いつか言うかもしれないが、いまではない。


「それがね、フェリスったら毎日仕事に行くのはもう嫌だって言ってたの」

「まあ、それはぼくらだって、一緒に遊べないとフェリスをなじっていたし」

「そうだったっけ?」

「そうだったよ」


まあ8歳だから仕方ない。




「それでどうしたんだ?」

「もうね、村人は便利だからそれをなくすわけにはいかなくなって。

各戸から集落の中心までは子どもの使いを頼んで、後の集落の中心と村の中心間を俺がしていたんだけど、俺のしていた分は馬車業者に頼んで引き継いでもらったよ」


つまり潜在的な需要はあったわけだ。みんな意識に登らないだけで。俺の意識にあるのは前世知識のおかげだ。



「じゃあ、それをここでもやろうっていうんだな」

「うん、村の方が進んでいて1つ1つ運んでいる町の方が原始的なやり方だもんな」

「そういえば、こっちの郵便は、子どもに頼むか、冒険者ギルドか便利屋に頼むかだね」


そうなのだ。子どもに頼むと安いがもちろん不便は多い。冒険者ギルドはスコットの個人事業で、そちらの仕事はあまりしていない。


便利屋は子どもに頼むより信頼性は高いが、値段も高い。だいたいまとめて運ばずに1件1件、送り元から送り先に運ぶのだから効率が悪い。




「今度は投げ出さないだろうな」

「今度は投げ出さないわよね」


何か見事に信用がない。だいたいあの時はシンディも俺が一緒に遊べないことをなじっていたじゃないか。


「そりゃ、一緒に遊びたいとせがむ友達がいなきゃ大丈夫だよ」

「まあ僕らも成長したし、もう仕事をする年だから大丈夫だよ」


おおマルコ、心の友よ。





「だけど、仕事を増やして大丈夫なのかい?」


ブラックで疲弊しているマルコが当然の疑問を聞いてくる。


「それでジラルドとカミロも入ったし、行商に行くときの人を増やそうかと思うんだ」

「そんな必要あったっけ?」

「ほら最近は軽食を売るようになったり、売れ行きがよくなって行商のとき忙しいだろ」

「そうだった?」

「この前もシンディがお客さんの相手をしていて、別の人に話しかけられて混乱していたじゃないか」

「ああ、そうかあ、そんなこともあったっけ。お客さんが増えると大変だものね」

「ちょっと思い出してみて、最近そういうのが増えているよ」

「もっとテキパキこなせるようにしないとダメね」


いやそうじゃない。それはブラック脳だ。労働強度が高くなっているのだ。ただそういうことは頭の中にその概念がないと意識に上がらない。


「だから今度から行商に3人で行くのもいいかと思うんだ。あるいは朝早くは暇だから途中から入ってもらってもいいね」

「なるほどな。人増やして余裕ができるなら、仕事を増やすこともできるということか」




「実際はどういう風に進めるんだ?」

「いまはお使いで子どもたちがしているので子どもを集配人として雇う。それで行商の場所までの回収と行商の場所からの配達をしてもらう」

「そうだったわね。私も村の本体で配達したことがあったわ」

「行商場所から行商場所への輸送はもちろん俺たちで行う。だから子どもは遠くには行かなくていい。それからまとめて運ぶのでその分の労力が節約できる仕組みだ」

「なるほどな。うまくできているな」

「フェリスがうまいのはそれだけじゃないんだよ」


「そう、人が複数関わるから、途中でなくなったり壊れたりするかもしれない。だから伝票で管理する。

手紙や荷物を受け入れるときに伝票を書いてもらい、集配人と俺らの受け渡しのときも伝票に書いて、全部流れを把握するんだ」


「なんかすげーな」


そりゃまあ前世知識だ。


「そうそう。しかも料金はあらかじめ決められた料金だし、事故があったら補償するし、届け先も地図と住所の記入で間違いなくなって、それまでよりかなり便利だったんだ」

「はあぁ、村でそんなことしていたのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ