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ジラルドとカミロ(下)

 カミロはやはり不思議な人だ。まずパッと見て容姿はきれいだ。背が高く色が白く金髪のくせ毛で、目が大きくかなり整った顔だ。


だが人が話しかけても、どこか上の空でいなしてしまう。何を考えているのかよくわからない。


この前も女の子に話しかけられていたが、あまり会話がないまま女の子の方が立ち去ってしまっていた。もっとも本人の方は話しかけられすぎて面倒なのかもしれない。


接客ではときどき言い寄られるときは困っているが、それ以外のときは特に問題なくこなしている。




 何を考えているのかわからないのだが、話してくれないわけでもない。実はその時々で考えていることは別のことのようだ。


あるときにはうちの物流のことを考えていた。通る道なども含めてどのように運べば効率がいいかなど地図を見せて説明してくれた。


計画はきちんとしているのだがよくよく内容を見るとぎりぎり過ぎてちょっときついような気がする。


「うまくできていると思うけど、ちょっとこれだと動く人がきついような」


だいたい本人もいつも来るのは時間ギリギリなのだ。


なおこの社会では時計を持っている人はごく限られていて鐘の音で時間を合わせるのでそんなにきちんと時間を守らない。


それでもある程度は時間を合わせるわけで、そうなると余裕を持ってくるのがふつうだ。ところがカミロはいつもぎりぎりに来る。もちろんトラブルが起きれば遅れてくる。


「そうかな?」

「だって考えてみてよ。ここで何かトラブルがあって遅れたら、あと全部遅れるよね」

「そうだけど、遅れるかな」

「いやだって、君自身がこの前も遅れて来たよね」

「そうだったね」


こんな調子だ。別に本人は悪気がない。


「もう少しトラブルを見込んで余裕を持たせたプランの方がいいと思うよ」


そう言うと素直に受け入れて余裕を持たせたプランを考えてくる。それはそれで使えるので実際に採用したり、参考にしたりしている。




 カミロはいつも仕事のことを考えているわけでもない。何か哲学的なことを考えていることもある。


愛について、世界の平和について、今日の夕食のおかずについて、いつも考えて没頭している。


何かほうっておけないのは猫みたいだからだろう。



「何か変よね。いつも考え事ばかりで」


本人のいないところだが、シンディがつぶやく。シンディはもう少し考え事をした方がいいようには思う。


なお白皙のイケメンなのでいろいろな女の子がカミロに言い寄るが、シンディはカミロにはあまり興味がないようだ。彼女は剣の強い人にしかなびかない気がする。シンディはアランの方も特に熱を上げたりはしていないし。



「まあでも、話してみると面白いよ」


オタク気質でマルコとは合うのかもしれない。




 軍師気取りでいろいろ献策するが、実際の実務やあちこちとの調整や面倒をしない人間はゴミでしかないのだが、カミロはそういうわけでもない。


飄々としているがきちんと細かい調整もしてくれる。別に外向きの仕事ができないわけではないが、内部向きの気がする。




 そうだ、前の会社にろくでもない若いお調子者がいたな。軍師気取りで部長に取り入って、部長は元気があるとか言って取り立ててリーダーにしてしまった。


思い付きでプロジェクトを立ち上げて、技術的にも難しくて労力もひどくかかるのでやめるようにと俺が会議で発言したのに、やればできると押し通していた。


そりゃできればいいけど、いまいる人員でできるわけないだろとしか言えない内容だった。公表前にテストケースを試してみろと言っても時間がないと無視された。


会議は技術がわからない人間が多数いたし、技術がわかっている人間は部長に逆らっても押し通されるだけとあきらめていて、そのまま通ってしまった。


どうなるかと見ていたら、そのお調子者のリーダーは上に頼んで人だけ集めてチームを作って、全部そちらに押し付けて自分はなぜか担当から外れていた。


あれにはびっくりした。あとから中途入社でチームリーダーにされた人の愚痴をさんざん聞かされたな。全くうまくいっていないし、見込みもないと。


あのプロジェクトの破綻も、お調子者の末路も見てないが、あの会社じゃ信賞必罰など期待できないだろうな。



とまた、前の世界での愚痴が出てしまった。今はこちらの世界の商売のことだ。


人の配置などもカミロに考えてもらおう。ただそのまま任せておくと、効率はいいのだろうが、ぎちぎちのギリギリになってしまうので、少し余裕を持たせるようにくぎを刺す。



 こうなるとやはり店があるのはいい。あまり赤字がひどいと困るが、少しくらい採算が取れなくても、流通の拠点として使いたい気がする。


例えば手伝いの人にいてもらうとか、落ち合う場所としても使いたい。それに毎週行くメインの行商場所ではなく、月に1回か2回のサブの行商場所には保存のきくものばかり持っていくので、店においておけば持っていくのが楽になる。


つまり東西南北に1つずつ拠点の店を作って、その拠点から行商に出ればいい。


拠点の店があれば自分で運ぶ必要はなく、馬車業者に頼んで物を運んでもらうこともできる。

そうすれば人を雇う必要もない。昔はやったアウトソーシングだ。


ただ中でするのと外に頼むことの比較ついてはトレードオフつまりある部分がよいと別の部分が悪くなるような状況が多々あって、一概にどちらがいいとも言えず、他の資源や状況を見つつ選択するしかなさそうだと思う。経営学でも学んでいればもう少し話を整理できたのかもしれない。




 話を戻すと、その日に売り切る軽食のようなものであれば行商で行っている広場に必要な分だけ持ってきてもらうのがいい。


だが後々まで残すものは必要な分だけなどにせず、一度にたくさん持ってきてもらった方がよく、店が必要になる。



 幸か不幸かこの町は人口流出気味で空き店舗があるから安く借りられるだろう。だいたい空家にしておくのは無駄遣いで、何らかの形で使った方がいいのだ。


もちろん使われる空き店舗の方は面倒だからというのはあるのだろうが、店があったのにつぶれてしまった地域の住民のことも考えた方がいい。



 話が脱線ばかりするが、けっきょくいま南だけしかない店舗を、東と西と北にも増やして流通網を考えて行商の拠点にしようと思う。またカミロがいろいろ考えてくれそうだ。

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