畑仕事が得意な妻です。夫に「この醜いバケモノめ、お前を愛することはない!」と言われましたので愛される努力(意味深)を限界までしてみました。私のこと、愛してくれますか?
それは結婚して暫くしてのこと。
「この醜いバケモノめ、お前を愛することはない!」
趣味の畑仕事から戻った私に対して、旦那様がそのように申されました。
ショックでした。お互いに惹かれ合ったからこそ、旦那様を婿に迎え入れて結婚したというのに……。
あろうことか旦那様は、生涯のパートナーである私との関係に冷めてしまわれたのです。
裏切られた気分……、
いえ実際に裏切られたのです。
ですが、私は寛容な女。
そして、改善できる女でもあります。
夫が私を愛してなくても、私は夫を愛しています。
愛されなくなったのならば、愛され直すための努力をするまでです。
◆
―――美しさを集めて綺麗になる。
それが、失った愛を取り戻す為に私が選んだ道でした。
要するに綺麗になって見返そうという魂胆です。
そもそも旦那様が私を愛することはないと言っている理由は単純明快。
旦那様は私の容姿がバケモノのように醜いから愛せないと仰ってるのです。
つまり、美貌さえ手に入れれば夫婦間の問題は解決するということ。子供でも分かる簡単な論理です。
これでも顔やスタイルには気を遣っていたので自信があったつもりでしたが、旦那様は私に対して「醜いバケモノ」と罵ってこられたので、まだまだ精進が足りなかったことを痛感しました。夫の理想を叶えてあげられない自分が情けない。
反省しながらも、ならばと思い立ち、早速行動に移しました。
◆
まずは街にいる美しい女性たちに声をかけ、
一人ずつ我が家に招待して協力を仰ぎます。
最初は驚かれましたが、猿轡を噛ませてあげると、みなさん文句も言わずに力を貸してくださりました。
ハワツさんからは優しき心を。
タタギさんからは流行の服を。
ケシハさんからは艶ある髪を。
ニガオさんからは美白な肌を。
シヤマさんからは魅惑の腕を。
タッエさんからは細長い脚を。
イタダさんからは整った鼻を。
美しい人たちの優れた部分を抽出して拝借し、私自身をアップデートしていく毎日が続きます。
途中で何度か挫けそうになりましたが、旦那様のことを想えば苦ではありませんでした。
それに、私が綺麗になっていくことに感動して、みなさん泣いて喜んでくれましたもの。とても心の支えになりました。皆、本当に良い人たちばかりでした。
私のイメチェンに無償で付き合ってくれた彼女たちは、義に生きる方々なのかもしれません。
まさしく、神話に登場する【2頭の牛に運ばれながら義に生きる者たち】のように。
嗚呼! なんて素晴らしいんでしょう!!
これぞ友情パワー!!
◆
頂戴した美しさを身に付ける度に、心と身体が輝きを増していくのを感じます。
これでまた一歩、理想の女性に近づくことができましたね。いい調子♪ これならもう醜いとは言わせません!
畑に新しい肥料たちを埋めて、私は上機嫌で旦那様の書斎に向かいます。きっと彼も喜んでくれるでしょう。
そう思っていたのですが、
「よ、寄るなバケモノ……!!」
部屋に入った瞬間、椅子に座る旦那様にそんなことを言われてしまいました。
何故? どうして? せっかく頑張ったというのに……。
疑問を浮かべていると、別人のように綺麗になった私の姿を見て、今度は蔑むような眼差しと共にこう告げられました。
「いったい何人の人たちを犠牲にすれば気が済むんだ!?」
…………はい? 意味がわかりません。どういうことでしょうか?
暴れる旦那様に御飯を与え、椅子に縛り直して差しあげますと、旦那様は続けてこんな事を言ってきました。
「俺を騙せると思うなよ殺人鬼め! どれだけ姿形を偽っても、その醜さは隠せんぞ!!」
その言葉を聞いた時、私は全てを理解しました。
どうやらまだまだ美しさが足りなかったようです。
私なりに美を追求したつもりでしたが、旦那様を満足させるには至らない中途半端なクオリティだったという訳ですか……。
言われてみれば妥協してたかも。
流石は私の旦那様。もっと限界まで愛される努力をいたしましょう。旦那様の期待に応えねば。
絶対に愛していると言わせてみせますね?
そんなわけで今夜も
私は綺麗になるため
美しさを求めて街を
彷徨おうと思います。
今日は思い切って少し遠出をしてみましょうか。
次は……、指が欲しいですね。
ねえ、この画面を見ている、そこの人。
あなた、良い指をしていますね。
【解説と後書き】
解説①:この作品の中には、縦読み出来る箇所がございます。
解説②:2頭の牛に運ばれながら義に生きる者たち
→牛+義+牛+生=■■
解説③:妻の正体は■■■■■。美に並々ならぬ熱意を持っている。畑仕事とは■■■■活動のこと。畑にはこれまで■してきた■■が眠っている。結婚して半年経ったある日、夫に畑の秘密を知られてしまう。その際に口論となり、彼から■■されるが彼女は見当違いの解釈をして本編開始。以前からも行っていたことだが、街で見かけた美しい女性の美しい部分を剥ぎ■り、自身に■■することで美を追求していく。夫が■■たり■■したりしないように■■をしており、■■が終わると夫の所に赴いては「私のこと、愛してくれますか?」と定期的に確認をしている。この■■は夫が妻を愛してると宣言するまで終わることは決してないだろう。
彼女の要望に非協力的な者は呪われ、
これから先の人生は真っ■闇であり、
■幸が約束されているので注意が必要だ。
余談だがテセウスの︿_/︺▔╲︿︹▁▁_▁▃▅▅▇▇██████████
+
K
e
手
解説四:妻は夫のことが好き。夫も妻のことが大好きになるに違いない。
お読みいただきありがとうございました。
ところで、この文章を書いている人物は誰だと思いますか?
インターネットは本人と関係者さえ消せば簡単に成りすませれるから便利ですよね。あなたのネット上の知り合いの方々の中にも、既に中身が入れ替わっている者たちが何人かいるかもしれません。
最近の世の中は人探しが大分楽になったと感じます。
パソコンや携帯電話の端末情報を辿れば誰が何処にいるかも瞬時に把握出来ますし、インカメラをハッキングすれば相手がどんな人かも丸分かりなんですもの。
みなさん良い時代に生まれましたね。神に感謝を。
★★★★★評価にしていただけると今後の活動にも精が出ると思います。
え? この作品を★5評価にすることはない?
そうですか。それにしても良い家に住んでますね。
モニターの電源を切る時は、どうか気を付けて。
黒い液晶画面に映っている顔は、
あなたと……もう一人。