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第43話 油断がまねいた大苦戦

 初日は別荘の探索と最低限の清掃だけで終わってしまった。

 まだ使えそうなシーツ類を発見したので玄関ホールにき、そこで四人は一泊する。


 さあようやく洞窟探索だ――。

 という段になって、アイシラがまったく計画していなかった事態がおこった。

 洞窟の数が一つではないのだ。

 浅いもの、深いもの、モンスターの巣になっている場所、奥でつながって一つになるものなど、大小さまざまな穴が島のいたるところに存在していた。

 

「ムキー! ゲームではど真ん中に一個あるだけなのに!」


 運営の演出なのか、それともこれがリアリズムなのか。

 よく分からないがそれらしいものから一つ一つさぐっていくしかない。

 数時間にわたる探索の結果どうやらここだろう、という一つに狙いはしぼられた。


 島の中央やや北にある洞窟。

 入り口の前にデカいカエルが居座いすわっていて、中に入るためにはそいつを倒す必要がある。


「ベル君、カエルは大丈夫? なんだったら隠れていてもいいよ?」


 アイシラが余計なことを言うので、ベルトルトはむきになって言い返す。


「ば、バカにするなよ! 僕だって男だ!」


 彼はネズミの一件ではじをかいてしまったので、今度は意地をはって戦うつもりのようだ。


「行こうリーフ! 僕が臆病おくびょうものでないことを証明してやる!」

「う、うん!」


 リーフはズンズン前を行く彼の背中を追いかけながら、アイシラたちのほうにふり返ってフフッと微笑んで見せた。

 年下の男の子が男気を見せようとしている。それが嬉しくもあり、楽しくもあるようだ。


「姉さん、あの二人が前で良いの? 行っちゃうけど?」

「いいんじゃない? やる気があるのはいいことよ」


 あのベルトルトもきたえればやがて他のキャラクターと遜色そんしょくのない強さになる。

 本人がやる気になってくれているのだから、邪魔をしてはいけないだろう。



 こんな軽いノリで陣形はそのまま。

 門番の《おおがえる》と戦闘がはじまった。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



《イーグルスラッシュ!》


 常に最速でうごけるリーフの一撃。

 まずはそこから戦いは始まる。


 ズバアッ!


 風のような速さで敵のふところへもぐり込み、腹部を斬り裂く。

 だがさすがにこの一撃では終わってくれない。

 ベルトルトが後ろにつづいて、カエルの前足に斬りつけた。


「やあ!」


 スパッ。

 小さいが確実にダメージをあたえる。


 そして遅れてやって来たタカキが槍で突く。


「ハッ!」


 前で戦う二人の邪魔にならぬよう、横にまわりこんで反対側の前足を攻めた。

 だがまだ終わらない。敵のHPはかなり高いようだ。


 なんだかイヤ~な予感がしたので、アイシラは近づくのを止めた。

 魔法で遠距離攻撃する


《ストーンショット》!


 ドドドッ!

 数発の石つぶてがカエルの顔面にボコボコ直撃する。

 だが予想通りまだ生きていた。


(ヤバいこの敵、HPオバケだ)


 動きは遅い、だがワンターンキルできない相手。

 こういうタイプはやればやるほどダメージが蓄積ちくせきされるので面倒なのだ。


 味方は全員行動終了してしまった。

 恐怖の敵ターン。


「ゲコッ!」


 大きなカエルはひと鳴きすると大きくジャンプした。

 そして巨体を大きく広げ、そのまま地面に叩きつける!


《ボディプレス》!


「ウワーッ」

「くっ」


 ベルトルトとタカキ、二人の男から悲鳴が出た。

《ボディプレス》は拡散系の物理ダメージ技。

 メインに中級ダメージ、それ以外の近距離に半分のダメージを与える。



「えっ、二人無事? じゃリーフは?」

 

 ドクン、ドクンと不安で胸が高鳴った。

 脳内画面に表示されているリーフは、こうだ。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 リーフ HP 0/230 戦闘不能


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


《おおがえる》がゆっくり巨体を起こす。

 その下でリーフはピクリとも動かなかった。

 パーティの中でもっともHPの高いリーフが、たった一発で。


「リーフ! うそだそんな、リーフ! リーフさん!」


 ベルトルトの痛切な悲鳴が戦場に響いた。

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