第31話 新キャラは金髪二人
新キャラ登場、いや珍キャラ登場というべきか。
涙目で平和的解決をうったえかけるゴリマッチョ女の登場に、あっけにとられる一同。
「な、なんだよお前」
酔っぱらいたちの態度もちょっと弱腰である。
なにせ筋肉のつき方がハンパない。柔道やレスリングの女子重量級とおなじくらいか、もしかしたら上をいくかもしれない。
――この女を怒らせたら、ヤバい。
だれでも簡単に想像できる危険がそこにあった。
「……帰ろうかタカキ」
アイシラはテーブルの上に代金を置いた。
喧嘩の熱がすっかり冷めてしまったいま、この場を離れてしまうのがベストだと思ったからだ。
気持ちが冷えたのはタカキも一緒だったようで、彼もなにも言わずに後ろをついてくる。
酔っぱらいたちももう二人を追ってはこない。
危ないところであったが無事帰れそうだ。そう思いながら出入口のドアノブに手をのばす。
しかしその瞬間、アイシラが握ったまさにそのタイミングで、ドアは突然逆方向に引っ張られた。
「えっ」
小柄なアイシラは前のめりに倒れそうになる。
しかしドアのむこう側に立っていた人物が、彼女の身をささえてくれた。
「大丈夫?」
「す、すいません」
おどろきながら正面をみると、そこには上等な衣服を身につけた美少年が立っていた。
金髪青眼、歳は16、7といったところ。
なかなかお目にかかれないレベルの美形だ。
「……ベルトルト?」
アイシラは反射的に彼の名を呼んでいた。
8人の主人公キャラの一人。貴族の息子ベルトルト。
髪の色、目の色、服装、すべて一致する。間違いなくベルトルトだ。
(きっとこの人もプレイヤーの一人だ!)
そう判断してフレンドリーな態度で接しようと考えるアイシラだったが、予想に反してベルトルトの反応は『首をかしげる』だった。
「……お嬢さん、どこかでお会いしたことがありましたか?」
「えっ」
(もしかして、ちがうのこの人?)
「あなた、プレイヤーでは?」
「……?」
プレイヤーという言葉の意味が彼に通じない。
やはりこの人はちがうらしい。
(……どういうこと?
よりにもよって何でベルトルトがプレイヤーじゃないわけ?)
貴族の息子ベルトルト。16歳・男。
彼は8人の主人公の中でも、もっともストーリーの中心にいるキャラクターである。
ストーリーの通りであれば、彼はいま家族の命も領土もモンスター軍団に奪われ、自分一人だけ皇帝に保護されている身である。
なぜそんな悲惨な目にあっているのかというと、彼の生まれ故郷《アナテマ》こそ1000年ものあいだ邪神を封印しつづけてきた土地だったからだ。
邪神の封印がとけ、集まってきたモンスター軍団によってアナテマは占領されてしまった。
そうとも知らず、ベルトルトは自分の生きるべき道を求めて冒険の日々を送る――というのが彼のストーリーだ。
ちなみに、アイシラとベラドンナがクリアした「婦女誘拐イベント」をやらずに皇帝・カール二世と面会できる唯一のキャラでもある。
ベルトルト以外の男性キャラが皇帝に会う場合、嫌でも一回はベルトルトをパーティに参加させる必要があるのだ。
言ってしまえば彼は主人公の中の主人公。ゲームの最重要人物だ。
そんな重要キャラなのに、なぜプレイヤーに選ばれなかったのだろうか?
(意味わかんない。なに考えてんのよあの運営チーム?)
遊牧民の村を半壊させてくれやがった4匹のド変態どもを思い浮かべる。
しかしあんな連中の思惑など分かるわけもない。
とまどっているアイシラをよそに、店の奥にいたゴリマッチョ女がノシノシと歩いてきた。
「ベルくん~! 待ってたよ~!(はぁと)」
「うん、待たせてごめんねリーフさん」
なんだか親密そうな空気感をただよわせる二人。
「リーフ?」
その名を聞いて、アイシラはあらためてゴリマッチョ女の外見を確認した。
逆立つ金髪。屈強な女戦士。
どうして気づかなかったのだろう。
あまりにもゲームと性格が違いすぎたせいだ。
辺境の女戦士リーフ。
彼女も8人の主人公キャラの一人だった。
リーフはまさに恋する乙女といった顔で瞳をうるませながら「ベルくん」とやらの顔を見つめている。
(……男性アイドルにはまった女子プロレスラーの図、って言ったらラリアットくらいそうね)
アイシラはさすがに口には出さなかった。




