第17話 神の秘宝
「着いた……!」
アイシラとタカキの二人は、目の前にひろがる絶景にしばし見惚れてしまった。
大型のスポーツスタジアムをもこえるかというほど広大な、一面の鍾乳洞。
その中央にはご先祖様が神のためにつくったのであろう祭壇があった。
祭壇の上には、小さいが見事な装飾のほどこされた宝箱が。
あの中身こそ先祖代々守りつづけてきた神の宝珠「土のトパーズ」だろう。
「……いるね」
タカキは祭壇の奥を指さし、ごく小さなささやき声で言った。
パッと見、茶色い岩山がそこにある。
しかしよく見るとその岩山は一定のリズムでふくらみ、そして縮み、またふくらむといった動きをくり返している。
つまり呼吸しているのだ。
岩山の端から端までをじっくりと観察して、ようやくそいつの全体像が見えてくる。
この地下洞窟のボス、「地竜」だ。
想像していた以上の巨体に、思わず寒気がした。
HPはたしか一万くらいあったと記憶している。
攻撃力も高い。尻尾の一撃《テイルスイング》で前列の味方に200~300くらいのダメージを与えてくる。
今の戦力ではどうやっても勝てっこない。
「じゃあ、予定通りにいくわよ」
そう言ってアイシラは背嚢から長いロープを取り出した。
村からあらかじめ用意してきた物である。
「本当に大丈夫? 俺が代わろうか?」
「うーん、嬉しいけど無理かな。
あたしじゃあんたを引っ張りきれないもの」
自分の身体にがっちりロープを縛りつけながら、アイシラは答える。
タカキが優れた力自慢であること。
そしてアイシラが華奢な女の子であること。
両方が揃っていてこそ、これからやる作戦は成り立つ。
逆では無理なのだ。
胴体だけではなく、胸、肩、腰といった各部にも用心深くロープを巻いていく。
この命綱に人生を賭けるのだ、絶対ほどけないようにする。
「んじゃ行ってきます、よろしくね」
ことさらに軽い口調でそう告げると、アイシラは鍾乳洞の中へと入っていった。
わざと明るく振舞うことで、すこしでも恐怖をやわらげようと思ったのだ。
ピチョン、ピチョン……。
水滴の落ちる音がたえず洞内に響いている。
彼女はふと昔を思いだした。
(そういえば鍾乳洞なんて子供のころ家族で旅行に行ったとき以来だな)
まだ中学校に入る前だったか。
あのころは毎日が楽しかった。
迷ったり悩んだりすることが何もない、幸せな時代。
それがまさか親に家を追い出される未来になろうとは。
人生って悲しい。
ボンヤリそんなことを考えながら歩いていると、引きずっていたロープがピン、と張った。
これが長さの限界らしい。タカキもゆっくり入り口から降りてきて、だいぶ離れた場所からついてくる。
このギリギリな距離感が重要だ。
ロープが弛んでいると引っ張るときの力が弱くなる。
二人はちょうど良い距離をたもつため、ゆっくりとした速度で歩いていく。
そして「トパーズ」が眠る祭壇にたどりついた。
(行くよタカキ)
アイシラは合図としてクイクイ、とロープを引っ張った。
クイクイ。
タカキからも同じように合図が返って来る。
ほんのささやかなコミュニケーションにすぎないが、それでも自分が一人ぼっちじゃないことを実感できて嬉しい。
階段を一段ずつ、ゆっくりのぼっていく。
すぐに上までたどりついた。
豪華な彫刻のほどこされた台座に、美しい宝石箱がただ一つ安置されている。
ごくっ。
つばを飲み込み、箱を開ける。
瞬間、中からまばゆい光があふれだした。
中におさめられていたのは褐色の宝玉を中央にあしらった首飾り。
《神の秘宝「土のトパーズ」を手にいれた!》
手に取った瞬間、脳内画面に文字が表示される。
「やった……!」
感動にふるえながら神の秘宝を首にかけるアイシラ。
しかし感動もそこそこに、予想していた事態がおこってしまう。
グルルルル……!
不気味な、そして巨大なうなり声。
同時に目の前の山が地響きとともに動き出す。
ボスキャラ「地竜」が目をさまし、起き上がったのだ。
そしてトパーズを身につけているアイシラの姿をその巨大な眼球でとらえ、ためらうことなく牙をむいた!




