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9.公爵の謝罪

応接室へと入ると、公爵が座ったソファの向かい側に私とジョーゼル様が座る。

何を話すのかと思えば、公爵は座ったまま深く深く頭を下げた。


「ジョーゼル様、申し訳ありませんでした。」


「…公爵、俺にそんなふうに頭を下げないでください。」


「いえ、おそらく…運命の相手に選ばれたとなれば…。

 ジョーゼル様は王子だと公表されるのでしょう?

 身分はジョーゼル様のほうが上になります。」


「公爵…知っていたのですか?」


「王族の血が外に出るわけですから…

 ジョーゼル様が産まれる時には前もって公爵家に話が来ていました。

 公妾が産んだ子は身分を隠して侯爵の子として育てると。

 第一王子も第二王子も産まれた後ですから、そのこと自体には問題ありません。

 何かあった時のためにも王子が増えることにも賛成でした。

 

 ミリアとの婚約話も、ジョーゼル様が第三王子だとわかっていて受けたのです。

 何かあれは王太子になるかもしれないのですから、

 公爵家と結婚させようとした陛下の考えもわかります。

 そうならなかったとしてもキュリシュ侯爵家の血を絶やすことはできませんし、

 公爵家としてこれ以上ない良縁だと喜びました。」


ナイゲラ公爵が喜んでいた理由はわかる。

身分を隠しているとはいえ、公爵家に通達されているのなら、

ジョーゼル様は第三王子として見られていただろう。

公爵令嬢のミリア様との身分もちょうどよく、年齢差もそれほどない。

もしかしたら王太子になるかもしれないのだし、断る理由がなかったはずだ。


「ミリアは…ずっとジョーゼル様のことをお慕いしておりました。」


「は?」


…先ほど泣いていたミリア様を見て、もしかしたらそうかもしれないと思っていた。

拒絶した理由はわからないけれど、ジョーゼル様のことを好きなのではないかと。

だけど、ジョーゼル様は納得いかないようだった。


「あの態度で、どこをどう見たらそんなことを?」


苛立つような声のジョーゼル様には同情しかない。

あの泣き崩れるミリア様だけを見たら、本当は好きだったことは理解できる。

だが、四年間も拒絶された側にしてみれば…ふざけるなと言いたくなるだろう。


「…私にもわからないのです。

 ですが、婚約前のミリアはジョーゼル様のことをお慕いしていると、

 私や家の者たち、友人へも隠していなかったのです。

 それが婚約が調ったと思ったら、急にあんなことに。」


家族である公爵にもわからないのであれば、

拒絶されるだけだったジョーゼル様にはもっとわからなかったはずだ。

今さらそれをわかってほしいと言われても無理がある。

静かにため息をついたジョーゼル様は何かをこらえているように見えた。

きっと怒りを公爵にぶつけてしまわないように抑えようとしているのだろう。


「…もういいです。公爵が悪いとは思っていません。

 もしかしたら俺に対してあこがれのような気持ちがあったとしても、

 実際に婚約してみたら嫌になったということもあるでしょう。」


「ジョーゼル様…本当に申し訳ありませんでした。」


「いえ、もうこの話は終わりにしましょう。

 すでにミリア様との婚約は解消されましたし、

 俺の婚約者はアンジェ様です。」


にっこり笑って言うジョーゼル様だけど、おそらくこれは拒絶だ。

これ以上、公爵たちに関わりたくないジョーゼル様からの拒絶なのだと思う。

公爵もそのことに気が付いたようで、黙って頭を下げた。


「それでは、アンジェ様を送るので、これで失礼します。」


「…失礼します。」



話は終わったとばかりに私の手を取って立ち上がるジョーゼル様に、

逆らわずにそのまま小走りでついていく。

少しだけさっきよりも歩くのが速い。

ジョージア様は普通に歩いているのかもしれないが、

私とは体格差があるため歩幅が違いすぎる。

ついていけないわけではないが、ジョーゼル様に引っ張られる形になっている。


「あ…ごめん。速すぎたな。」


「いえ…大丈夫です。」


「いや、ゆっくり歩こう?」


私が小走りになっていたことにようやく気が付いたようで、

申し訳なさそうに謝ってくる。

そして、今度は私の歩幅に合わせてゆっくりと歩き始めた。


こんなにいい人が…ずっと苦労させられていたことに怒りを覚える。

傷つけたことを理解していないミリア様にも、何もせず見ていただけの公爵にも。




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