7.秘密
「…さて、話しておかなければいけないことがある。」
真剣な顔に戻った陛下に、私たちも姿勢を正した。
婚約のことで話があるのだろうか?それとも今後の話?
「運命の乙女が選んだ相手は賢王と呼ばれる。
その言い伝えは知っているな?」
「…?はい。知っております。」
「運命の相手は…王族であることが多い。すべてではないがな。
だからこそ、運命の乙女は王族で奪い合いになることが多かった。
運命の相手以外を弾くようになったのはそのためだと言われている。
もともとの運命の乙女は光りながら産まれてきて、
運命の相手にふれた時には同じように光って知らせたそうだ。
だが、ある時それを光る道具でごまかして、
運命の乙女を無理やり娶ろうとした王子がいた。
神は運命の乙女を何よりも大切にされる。
その後に産まれた運命の乙女は相手以外を弾くようになって、
手を出そうとするものには痛みを感じさせるようになったという。」
そうだったんだ。
じゃあ、最初の頃は異性を弾かなかったということ?
ただ光るだけなら何か道具で光らせて見せることもできる。
運命の相手ではないのに王子が無理に娶る…えええ、怖い。
今まではこの体質が嫌で仕方なかったけれど、守られていたのだと気が付く。
「今でも運命の相手に選ばれたものを王太子にすればいいというものが多い…。」
それを今さら言われても、第一王子も第二王子も選びませんでしたよ?
陛下は何を言いたいのだろう。思わず首をかしげてしまいそうになる。
「ジョーゼルは…私の子だ。」
「は?」「ええ?」
思わず声が出てしまっていた。不敬だとか言っていられないことを聞いた。
ジョーゼル様が陛下の子って、どういうことですか!?
「キュリシュ侯爵は子を作れない身体だった。
だが、キュリシュ家だけが持つ毒耐性スキルが失われると、
王族を守る王宮薬師がいなくなってしまう。
そのため、先代国王は王命を出して、
侯爵と分家で唯一毒耐性スキルを持っていたリオナを結婚させることにした。」
毒耐性スキル。聞いたことはあったけれど、本当にあるんだ。
王宮に代々仕えている家の中には、
特殊なスキルを持つ家があるとは聞いたことがあった。
それがキュリシュ家だったんだ…。
「ジョーゼルは表向きは侯爵とリオナとの間から生まれたことになっている。
だが、実際は私との子だ。
先代国王は結婚を承諾させるために、
リオナに好きな相手を選んでいいという条件をつけた。
リオナが選んだのは私だった…。
当時側妃が第一王子を生んだ直後で、王妃が第二王子を妊娠していた。
リオナは公妾として身ごもるまで半年ほど私のそばにいた。」
本当にジョーゼル様が陛下の子?
陛下とジョーゼル様を見比べると、髪の色は違うが瞳の色が似ている。
この国の初代王と王妃が金髪だったため、
王族と王家に近い公爵家は金髪で産まれてくることが多い。
陛下や王子たち、我が公爵家もそうだ。
ジョーゼル様が銀髪なのはキュリシュ侯爵家特有の色を持っているからだ。
だけど…ジョーゼル様がもし金髪だったと想像してみたら、陛下にそっくりだった。
髪色が違うことで印象がこれほど違うとは思ってもいなかった。
「…俺が陛下の子。弟もそうなのですか?」
「次男は違う。新しくできた恋人との子だろう。
俺の子はお前だけだ。
だから王籍にもお前は第三王子として記載されている。
公表する気はなかったが、第一王子と第二王子が亡くなることがあれば、
ジョーゼルお前にも王位継承権はある。」
…私が選んだ相手は賢王になると言われている。ジョーゼル様は王子だった。
あれ…これってまずいのでは?
ジョーゼル様を見ると表情が固まってしまっている。
予想外の話をされて、まだ理解できていないのかもしれない…。
「ジョーゼル、こうなってしまった以上公表しないわけにはいかない。
リオナが公妾だったことを知っている者がいる以上、隠し通せるものではない。
今まではわかっていて黙っていた者も、
運命の相手に選ばれたとわかれば言い出すだろう。
ジョーゼル王子を王太子にしようと。」
「…俺はそんなことは望んでいません。」
「アンジェは?」
「…ジョーゼル様が王太子になったら、私が王太子妃になるってことですよね。
将来的には王妃に…私はそんなことは望んでいません。」