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59.幸せ

小さい早咲きの薔薇が綺麗に咲いた中庭に笑い声が広がる。

重なり合う笑い声に、そばで控えている使用人たちも微笑んでいた。


「今回は間に合ってよかったわ。」


「そうね、また会えないところだったもの。

 あとひと月もしたら産まれるのよね?」


辺境から夜会のために王都へと来ていたユミールと、

こうしてゆっくりお茶できるのは五年ぶりだった。


馬車で数日かかる辺境に住んでいるユミールは、

身ごもっている間は王都へとくることができない。

ユミールが王都に来た時にはアンジェが出産直後で会えなかったりと、

ここ数年は本当にすれ違っていた。

なぜかダイアナだけは時期がずれていてユミールに会えていたので、

手紙を預かってもらったりしていた。


今回はアンジェが妊娠中ではあるが、まだ出産前だったこともあって、

辺境へ帰る前に公爵家へと寄ってもらってお茶することができた。


「今日は子どもたちはどこに?」


「息子は二人とも王宮に行っているわ。

 一応は王族だし…王子教育が始まったのよ。

 毎日ゼル様が二人を王宮に連れて行ってくれてるの。」


「あぁ、王子教育ね。

 …そっか。陛下のお子は王女様だけだものね。」


「そうなのよ。」


私とゼル様の間にアレクシとジョルジュが立て続けに産まれた後、

ハインツ兄様とユリエルの間にはマノン王女が産まれた。

昨年、もう一人産まれたのも王女でイネスと名付けられている。


このまま王子が産まれなければ、アレクシが王太子になることが決まっている。

そのため息子たちには王子教育がされているのだが…。

できればユリエルの次の子が王子であることを期待している。


「ねぇ、次の子はどちらだと思うの?」


「うーん。女の子も欲しい気もするけど、どちらでもいいわ。

 男の子三人も楽しそうじゃない?」


「ふふ。アンジェらしいわ。

 うちは二男二女だけど、これ以上は大変だからもういいわ。」


「四人も育てるのは確かに大変そうね。」


王家主催のうち貴族に出席義務があるのは、

園遊会と収穫を祝う夜会、それに新年を祝う会の三つだ。

辺境から来るのは大変だからか、

代表で誰かが出席すればいいことになっているらしい。


ユミールが来れない時はリュリエル様がお一人で出席されていたけれど、

何かを期待している令嬢たちに囲まれそうになっていた。

そこから逃げ出して私たちのところにくるリュリエル様には毎回笑ってしまう。

あれほど人気が高かったリュリエル様なのに女性の相手は苦手らしい。

ユミールがいれば令嬢たちが寄ってこなくて楽なのにといつもぼやいていた。


ユミールは結婚後すぐに身ごもり、ほぼ一年おきに子どもを産んでいる。

リュリエル様との仲は相変わらずで、幸せそうで何よりだと思う。


「今日はダイアナも来ると思っていたのだけど?」


「それがね下の子が熱を出したんですって。

 ユミールに会えなくて残念がっていたわ。」


ケイン兄様と結婚したダイアナは息子のロランと娘のサラを産んだ。

今日はサラが朝から体調を崩してしまったらしい。


「なかなか三人そろわないわね~。

 次に来る時はアンジェが出産して落ち着いたころかしら。」


「次こそは三人でお茶しましょうね。」


「ええ。」





辺境へ帰るユミールを見送ると、なんだか急にさみしく思えた。

学園に通っていたあの頃は毎日のように会えていたのに、

ダイアナともユミールともなかなか会うことができない。


一度抱えてしまったさみしさをどうすることもできず、

ただぼんやりとしていたら玄関のほうが騒がしくなった。


「お母様!ただいま帰りました!!」


「おかあさまぁ!」


「おかえりなさい。」


走って私に飛びついてこようとしている二男のジョルジュを、

後ろから長男のアレクシが必死で止めている。


「ばか!お母様のお腹には赤ちゃんがいるんだぞ。」


「…ごめんなさい。」


「ふふ。ゆっくりなら抱き着いてもいいのよ?おいで、二人とも。」


まだ七歳と六歳の小さな息子たちだけど、優しく育ってくれたことに感謝している。

二人を抱きしめると、息子たちもぎゅっと抱きしめ返してくれた。

異性にさわることができない運命の乙女でも、

自分の子どもだけは例外にしてくれていると知ったのは出産後だった。

そのことには本当に感謝している。

存分に息子たちを抱きしめていると、ゼル様が外套を脱ぎながら部屋に入ってきた。


「いいなぁ。その中に俺も入れてくれる?」


「お父様はあとでにしてください!」


「いつもお父様ばかりだから、ずるいです!」


「そんなこと言ってもなぁ。アンジェは俺の奥さんだから。」


私を取り合ってゼル様と息子たちが言いあうのがおかしくて仕方ない。

私が息子たちを抱きしめているのをそのままに、

ゼル様に後ろから包み込まれるように抱きかかえられる。

いつもと同じ光景だけど、毎日幸せでよかったと思う。


「おかえりなさい、ゼル様。」


「あぁ、ただいま、アンジェ。」


運命の相手があなたで、本当に良かった。




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