54.ルチア襲来(シモン)
ありゃ…おかしくなっちゃってんな。
ここ数日ルチアの様子を伺っていたけれど、どう考えてもおかしい。
考えられるのは、自分のスキルに毒されてしまった可能性だった。
ミリアを洗脳しようとして、都合のいいことばかり言っていたのだろう。
ただ、その言葉は自分にも跳ね返ってくる。
力というものは制御しなければ、自分も傷つける刃のようなものだ。
ミリアに向かって使っていたその力はルチアをも傷つけた。
そして、洗脳された状態に近い今では、
自分がおかしくなっていることに気がついていない。
保護するなら早いほうがいい。
今日にでもハインツ様に報告してルチアを隔離してもらおう。
ここまでおかしくなってしまったら、治すのは無理かもしれないが。
そう思っていたら、ルチアがジョーゼル様に会ってしまった。
「運命の相手に選ばれてしまったら拒否できないのは知ってます。
でも、あんまりだと思うんです。
せめて…ジョーゼル様の御心をなぐさめるためにも…。
アンジェ様には側妃を認めてくれるようにお願いしてきます!
一所懸命お願いしたら…認めてくれると思うんです。
私…ジョーゼル様のためなら、
アンジェ様に許してもらえるまで頑張りますから!」
はぁ?何言ってんの?
もうぶっ飛んじゃってるのはわかってたけど、ここまでか。
あれ?やばくない?
ルチアの向かってる先、アンジェ様の教室だよ。
教室の入り口に立っている護衛も戸惑っているけど、
違う学年とはいえ学生を止めていいのか迷って、中に入れてしまった。
慌てて追いかけて教室の中に入ると、ルチアはアンジェ様の前にいた。
「私…(言語認識遮断!!)
ミリアの代わりにジョーゼル様と結婚する予定だったんです!
それが急に運命の相手に選ばれたって聞いて…驚きました。
アンジェ様が悪いわけじゃないです。
だって、アンジェ様は選べないんですものね?
でも、それじゃジョーゼル様もかわいそうだと思うんです!
私…正妃はあきらめました。だから、側妃になることを認めてください。
王弟妃として外交などの公の場にはアンジェ様が立つでしょう?
私はジョーゼル様の癒しとして、閨に侍るだけでいいんです。
少しでもジョーゼル様を癒してあげたいんです。
お願いします。私とジョーゼル様のことを認めてもらえませんか?」
あーもう。どんな妄想だよ。間に合ってよかった。
ルチアは必死な顔でアンジェ様に訴えているけど、
アンジェ様を含めこの教室にいる人間全員との間の言語認識を遮断した。
ルチアが何を言っても、その音は言葉として認識されない。
しゃべらせるだけしゃべらせて、終わったら取り押さえるか…。
「こんなにお願いしているのに、ダメですか?
ミリアが妃にならなかったことで、
ナイゲラ公爵領とも関係が危うくなると思うんです。
ナイゲラ公爵領はまだこの国に馴染んでいません。
ミリアとジョーゼル様が結婚することで、一つになれるはずだったんです。
でも、その代わりに私を娶るのなら、ナイゲラ公爵は納得してくれます。
私のことは本当の娘のように可愛がってくれているんです。
側妃になる際にはナイゲラ公爵の養女になって嫁ぐことも可能です。
この国のためにも私たちのことを認めてほしいんです!」
よくしゃべるな~でも、そろそろ止めてもいいかな。
ルチアもアンジェ様たちが反論しないことに気がついてきているみたいだし。
誰も自分の言葉に反応しないから、おかしいって思ってるよね。
スキルの力はそんなに強くないけど、無反応になるってことは無いから。
精神抵抗力の弱いものが聞いていたら、ルチアに賛同していただろう。
こんな人の多い時を狙ったのはそのせいだろうけど、残念だったね。
俺の力に比べたら、こんな些細なもの意味がない。
パーン
大きく手を打って、この場を止める。
いっせいに俺のほうを向いたのを確認して、アンジェ様に笑いかけた。
「やぁ、アンジェ様。ごきげんよう!」
そんな不思議そうな顔しないで。
すぐにアンジェ様の王子様が助けに来ると思うからさ。