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50.落ちる

「…ルチアに…ずるいって言われたの。」


「何がずるいって?」


「私もルチアも、ジョーゼル様が好きだった。

 なのに、私が王命で婚約者になってしまった。

 ルチアは…私がお父様にお願いして、無理に婚約者にしたんだろうって。」


「違うなら違うって言えばいいのに?」


「言ったけど、聞いてもらえなかった。

 そんな嘘つくなんてひどいわって、よけい機嫌が悪くなっちゃって。

 だから、ジョーゼル様と最初に会った時にルチアの目の前で言ったの。

 私が望んで婚約したわけじゃない、って。」


最初にジョーゼル様が挨拶に来てくれた時、期待していた分がっかりもした。

初めましてと私に声をかけた、その目は恋をしていなかった。

穏やかな優しい目だったけれど、恋しいものにする目じゃなかった。


だから…ルチアに言われたことをふと思い出した。

きっとジョーゼル様だってミリアがわがまま言って婚約させたと思っているわ、と。

もしかしたらジョーゼル様はこの婚約を迷惑に思っている?

好きでもない、話したこともない相手と王命で婚約させられて、

会ってみたら好みでもない私で…でも、身分は私のほうが上で。


「私はあなたなんかと婚約したくない!

 望んで婚約したわけじゃないわ。

 だから…今すぐ帰ってくれてもいいのよ!」


そう言ったら、ジョーゼル様は困ったように微笑んだ。

私が望んだわけじゃない、お父様が王命を頼んだわけじゃない。

それがわかったはずなのに、ジョーゼル様は帰らなかった。

…もしかして、ジョーゼル様が私との婚約を望んでくれたのかもしれない。

それを確認したくて何度も冷たくしているうちに、もう素直になれなくなっていた。


「そっか。嫌われたいわけじゃなかったんだ。

 それじゃあ、今は悲しいね。」


「…悲しい?」


「だって、ジョーゼル様に嫌われちゃっただろう?」


「そんなことない!」


「君がジョーゼル様に言った言葉、ずっと聞いててどう思った?」


「え?」


「君がジョーゼル様にぶつけた言葉、毎日聞いていただろう?

 あれを聞いて、どんな気持ちになった?好きって思う?」


「…。」


好きだなんて思うわけがない。

言った本人ですら耳をふさぎたくなる言葉、心をひっかかれるような声だった。

そうか…あれをジョーゼル様に聞かせてたんだ。


「ねぇ、どう思う?君は好かれてた?」


「…わからないわ。」


認めたくない。それだけは認めたくない。

認めたら、崩れ落ちて死んでしまいそうだから。


「わからないんだ。じゃあ、もう一回聞く?君の声。」


「…!いや、やめて!?」


「なんで?わからないんだろう?わからないなら、わかるまで聞こうよ。

 そしたら答えはどうなのか、わかるかもしれないだろう?」


「…わかった。わかったから、もうやめて…。」


あれをまた繰り返されるなんて…もう嫌。

自分のやったことを無理やりに思い出させられて、苦しくて息ができなくなる。

取り返せない言葉、やり直せない態度…もう無駄だと認めざるを得ない。


「あれ、もういいんだ?意外と素直だね。

 じゃあ、ご褒美に何かほかの声を聞かせようか?

 何がいい?」


「…うれしそうなジョーゼル様の声…。」


認めるから、せめてジョーゼル様の声を聞いてあきらめさせて…。


「…うーん。無理みたい。」


「え?」


「俺の魔術って、聞いたことのある声しか再生できないんだよね。

 つまり、君が聞いたことがない声は再生できないんだ。

 ずっと君が聞いていた君自身の声も、君が聞いたように再生されている。

 …無いものは聞かせてあげられないや。ごめんね?」


「…無い…の?」


私の中にジョーゼル様のうれしそうな声が無い。

嘘…一度も聞いたこと…無い。


「あは…あははは…そっかぁ。無いんだ…。

 嫌われてるんだものね…そうよね…。」


「まぁ、仕方ないよね。あきらめなよ。」


知らない男性の声が遠くに聞こえている。

その声ももうどうでもいいと思えた。


嫌われているんだもの。

もう、何をどうしても無理なんだ。


遠くに、遠くに、アンジェ様を大事そうに抱き上げていたジョーゼル様が見えた。

二人で見つめ合って、去っていく。

それが見えなくなった時、もう追いかける気は無くなっていた。



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