23.処罰(ハインツ)
ミリアの一件はジョーゼル付きの護衛騎士から陛下へと報告され、
すぐさまナイゲラ公爵が王宮へと呼び出されることになった。
「この度は…ミリアが申し訳ないことをしてしまい…。」
「ナイゲラ公爵…娘への教育を間違えたようだな?」
「ええ…本当にそうだとしか思えません。
ルードヴィル公爵、アンジェ様にもご迷惑をかけて…申し訳ございません。」
大きな身体を腰から折り曲げるようにして何度も頭を下げているが、
陛下もルードヴィル公爵も許すつもりはなさそうだ。
先ほどから謝られているが、二人とも謝罪を受け取る気があるとは思えない。
それもそうだろう。
「ナイゲラ公爵、私は報告を聞いただけだが、それでも怒りを感じるよ?」
「…ハインツ様。」
「弟のことを四年も婚約という檻に閉じ込めて傷つけただけでなく、
ようやく幸せになろうとしているのを邪魔するとは…。」
「申し訳ありません…。」
「そんな風に簡単に謝られてもね…。
アンジェの腕は真っ赤になって、爪痕までついていたそうだよ。
彼女は何一つ悪くないというのに…可哀そうに。
令嬢の腕にそんな傷を残すような暴力をふるうとか、ありえないだろう。
公爵家の淑女教育はどうなっているんだ?
あぁ、婚約者に罵声を浴びせるような令嬢だったな…最初から淑女じゃないか。
で、どうするつもりなんだ?」
「どうするつもりとは?」
「まさか、あのままミリアを学園に通わせるとか言わないよな?
またアンジェに何をするかわからないのに。」
「いや、でも、あの…学園をやめたら貴族としてやっていけなく…」
「第三王子にあれだけ無礼なことをして、アンジェに暴力をふるった。
学園内での出来事だ…すぐにすべての貴族に知られるだろう。
陛下にもルードヴィル公爵家にも、私にも嫌われた令嬢に貰い手があると?
これだけ敵だらけの状況を知ったうえで、
ナイゲラ公爵家に婿入りするような家があるとでも思うのか?」
あるわけがない。
そもそもナイゲラ公爵家には貴族の味方が少ない。
それもあってジョーゼルをナイゲラ公爵家に婿入りさせることにしたのだろうけど。
こうなってしまった以上、ナイゲラ公爵家が孤立するのは避けられない。
「…。」
「父上、ルードヴィル公爵、ひとまずミリアは学園を休学させることでいいですね?
少なくともアンジェが卒業する一年半後までは通わせるわけにはいきません。
これ以上何かあればジョーゼルも黙っていないでしょう。」
「処罰は別にするとして、それは当然でしょうね、陛下?」
「そうだな…ひとまず休学させ、様子を見よう。期限はアンジェが卒業するまで。
反省しないようであれば、重い処罰を考えることにする。
ナイゲラ公爵、
今回のことは事情があったからとはいえ甘く見ることはできない。
あれだけジョーゼルを拒絶していたのだから、自業自得だ。
それをきちんと娘に理解させろ。いいな?」
「…はい。」
とぼとぼとしょぼくれたように謁見室から出ていくナイゲラ公爵を見て、
やれやれと大きくため息をつく。
「多分、あれは無理でしょうね。」
「ハインツ様、無理とは?」
「ナイゲラ公爵はミリアの教育をし直せないでしょう。
甘いんですよ。あれだけわがままに育てたことへの反省すらない。
おそらくまた似たようなことを起こすと思います。
父上、アンジェにも影から護衛をつけられませんか?」
「できるが…ハインツがアンジェの心配をするとはな。」
「かわいい弟の恋人ですからね…心配しますよ。」
「そうか。まぁ、お前とジョーゼルの仲は良さそうで安心ではある。
アンジェには護衛をつけておこう。
宰相もそれでいいか?」
「娘を守ってもらうのに不満などあるはずもありません。
陛下、ハインツ様、ありがとうございます。」
「俺の義娘にもなるんだ。礼はいらん。」
「あぁ、私の義妹にもなるんですね。ふふ。楽しみです。」
少し心配しすぎかと思うが、影から報告されたミリアの様子からは、
ジョーゼルをあきらめているようには思えなかった。
アンジェが学園を卒業して、
無事に結婚するまでは護衛をつけておいたほうがいいだろう。