18.心配
「え?ハインツ様が?」
「うん、朝早くにこの知らせを受けて驚いたけど、
仕事があるからすぐに公爵家に確認することもできないだろう?
俺が午前中そわそわして落ち着かないでいたら、
そんなに心配なら午後は休みをやるから公爵家まで行って確認して来いって。
まぁ、ハインツ様も弟が心配だったようだけど。」
「ハインツ様が俺の心配を?」
ケイン兄様の話ではあるけれど、
ハインツ様がゼル様を弟だと思っていることに驚いた。
それはゼル様も同じだったようで、驚いたように聞き返した。
「あぁ、ハインツ様はジョーゼル様が弟だと知っていらした。
ジョーゼル様がそのことを知らないということも。
だから、話しかけないで見守っていた。
ミリア嬢との婚約も解消したほうがいいと陛下に働きかけしていた。」
「そんなことをハインツ様が…。」
「陛下もハインツ様に言われて初めて拒絶されている状況を知って、
ジョーゼル様が卒業する前には解消しようと公爵へ交渉していた。」
「あぁ、その話は陛下から聞いている。
ミリア嬢との婚約はこのことがなくても解消するつもりだったと。
そうか…ハインツ様が動いてくれたから…。」
「そんな風にこっそり心配していた弟が、運命の相手に選ばれたのだから。
落ち着かなかったのはハインツ様も一緒なんだ。」
「ハインツ様が…。」
第一王子のハインツ様は側妃マリア様からお生まれになっている。
王妃様の力が強い王宮内では目立たずに静かに過ごしていると聞いた。
学園を卒業する前から陛下の仕事を手伝っているそうだが、
王太子に指名されるかはまだわからない。
フランツ様が成人する前には王太子を決めることになっているのに、
卒業する学年になってもどちらが王太子になるのか発表されていなかった。
ハインツ様は武芸はたしなまれないが、長身でそれなりに体格も良く、
学園での成績は優秀だったと聞いている。
金髪なことをのぞけば、ジョーゼル様と似ていると感じた。
二人が並んだところを見る機会があれば兄弟に見えるに違いない。
「ところで…今日はフランツ様は学園を休んでいる。
アンジェの相手が見つかったことでショックを受けて寝込んでいるそうだ。
フランツ様がアンジェのところに顔を出し始めたと聞いて、
王妃の策だと思っていたんだが…それだけじゃなかったようだな。
まぁ、ジョーゼル様を連れて行っていたのは王妃の策だろう。
運命の乙女の外堀を埋めて妃として確保して、
ついでに第三王子の支持も得ているという風にしたかったんだろう。
今の王宮内や貴族たちの評価はハインツ様に傾いてる。
側妃の子ではあるが、第一王子だし、何よりも優秀だ。
陛下の仕事をいくつか任されているが、何の問題もない。
フランツ様と違って、俺たち側近がそろっているということもある。」
第一王子ハインツ様の同じ学年にはケイン兄様の他に、
公爵家二男や侯爵家三男もいて、ハインツ様の側近となっている。
その一方、フランツ様の学年には公爵家のものがおらず、
その下を探しても学園内にいる公爵家は私とミリア様だけ。
侯爵家のものを側近にしようとしたそうだが、
ゼル様以外も嫡男が多く側近になることを断られたと聞いている。
フランツ様自身の人気の無さもあって、あまり王太子に推す人もいないようだ。
この不利な状況をひっくり返すために私とゼル様を利用したのだとしたら、
そのことが逆に私とゼル様を結び付けたことにショックを受けているのかもしれない。
「フランツ様はこれであきらめると思うか?」
「フランツ様自身のことはわからないけれど、
そもそもこれは王妃の策だろう?
王妃は簡単にあきらめるような人じゃないからな。
それはアンジェがよくわかっているだろう?」
「アンジェが?」
「…。」
私がきちんと説明できればいいのだけど、あの頃のことはよく覚えていない。
嫌なことがあると自分を守るために忘れてしまうのだと医術師は言っていた。




