第一章 第三節 新しい日常 ー1.9ー
第一章
第三節 新しい日常 ー1.9ー
1999年12月26日 有馬記念
日本ダービーと有馬記念は毎年家族で観に行っていた。
車にだいぶ揺られて、中山競馬場に着いたのは、昼過ぎだった。
会場と同時に満席になるくらいだから、こんな時間に到着しても、5人で座れる場所なんてない。
もちろん、スタンディングだ。
僕の家では、宝くじを買う習慣が無かった。
サマージャンボ宝くじが日本ダービーで、年末ジャンボ宝くじが有馬記念、みたいなものだ。
レース前、クリスマスの2日前の話に遡る。
僕は父に頼み込んで、いつも買ってくれる1000円分の馬券に加えて、クリスマス、お年玉は要らないから、と言ってプラス5000円の馬券分の購入を申し入れたが、
「子供がギャンブルにお金を使いすぎるのは、良くない」
と言われ、
ーーーお年玉1000円でいいから、プラス3000円分、僕だけ多く買わせてほしい。他のきょうだいに言ってもいいよ?。どう?
と、再提案した。
父は、うーむ。と考え込んでいたけれど、
「クリスマスとお年玉の出費が少なくなるなら、いいんじゃない?好きにさせれば」
と母が言った。
こんなところで、母に助け舟を貰えるとは、思ってもいない。
心の中で笑ってしまった。
勿論、表情は変えないーーー
姉1000円。
僕4000円(ただし、クリスマス無し。お年玉は1000円)
弟1000円
という軍資金で、今日の有馬記念に来ているのである。
「わたしは、グラスワンダーの単勝かな?」
姉さん、手堅いね。的中おめでとう。
姉は、マークシートに、
『単勝 7番 1000円』と記入して、父に渡した。
「僕も姉貴と同じかな?7が好きだから」
7番しか買わない癖、変わらないな。今回は的中おめでとう。
同じく
『単勝 7番 1000円』と記入して、父に渡した。
「健一はどうするのよ?お前だけ4000円買っていいんだよ?クリスマス無し。お年玉は1000円に減額だからね?」
と、嫌味な視線を浴びせる母。
ーーースペシャルウィークとテイエムオペラオーの
お前だけ、グラスワンダー外すのか?と言うような顔をして見つめてくる父に対して、
ーーーワイドで。3番と11番のワイド。
と、言って、
『ワイド 3-11 4000円』と記入して、父に渡した。
しばらくすると、父がそれぞれの馬券を買ってきて、それを子供たちに渡した。
ターフを見下ろした。
凄い歓声だ。
間もなく、ファンファーレ。
この有馬記念の結果、凄まじいんだよ。
生で見られるなんて、かなりラッキーだよなぁ。
歴史的な有馬記念が間もなく出走。
(ー2ー に続く)