第一章 第三節 新しい日常 ー1ー
第一節
第三章 新しい日常 ー1ー
カツカレーの一件以来、姉とは打ち解けるようになった。
母からの姉に対する嫌がらせ、汚い言葉遣いはあったものの、部屋に戻ると元気そうになり、大学受験に向けた勉強にも、さらに熱が入るようになったみたいだった。
僕は、と言えば、一週間ほど自宅で休養し、病院に行き、学校に通っていい、と言う鈴木医師からの許可がおり、再び学校に通い始めた。
「佐倉くん、大丈夫だった?」
「心配したよ?」
と、何人かのクラスメイトが声をかけてきてくれた。
それに対して、
ーーーありがとう。もう大丈夫だから
と、答え、先生は、先生らしく、朝のホームルームで、
「では、級長、挨拶お願いします」
僕は、
ーーー起立、礼、着席。
と、言うと、先生は嬉しそうに一日の始めになる、クラスメイトの出欠確認をしていった。
「佐倉健一くん」
ーーーはい
「身体は大丈夫?まだ無理しないこと。佐藤公太くん」
と、出欠確認を続けて行った。
学校の授業は相変わらずで、体育の授業は休みながら、休み時間は読書をしたりする、ふりをして、
手帳サイズのメモ帳に、これからやらなきゃならないことを書き込みながら、考えこむ日々だった。
ベース、ドラムス、コーラス、管弦、か。
中学、友達できるかな、何か部活に入らなきゃならないかな。
団体行動が苦手だけど、部活かなあ
すると、後ろにふっと、気配を感じて驚いて振り向いた。
そこには、先生がいた。
ーーーうわ!
「へえ、何か面白そうなもの書いてるね」
ーーーいや、これは、何でもないですよ?
「いやいや、バンドのメンバー募集しようかな、って感じのメモでしょう?佐倉くん、歌、上手いし」
ーーーいえ、趣味、ですよ?
「そうなの?おうちでギター練習してるんだよね?お姉さまから聞いてるよ」
ーーーそうなんですね
「先生、中学の頃、吹奏楽部で、高校の頃、合唱部だったんだよね。吹奏楽部でドラムスやる子なんて一人しかいないから、彼は誘われるようにして、高校時代にバンド始めたっけねー」
ーーーそうなんですね
「じゃ、先生は職員室に戻ります。何かあったら相談してね」
そんなやりとりがあったりもしながら、しばらく学校生活を過ごしていった12月下旬。
自宅の郵便受けに、全国統一公開模試の結果が返ってきた。
自室に戻り、試験結果の封筒を丁寧にハサミで開ける。
『国語86点 算数82点 社会85点 理科75点』
『400点満点中328点』
『偏差値57』
『合格判定 立明学院C』
留守電を確認するが、メッセージは、0件。
ーーーそれでは、また。1年後の模試でお会いしましょう
と、僕は呟いて、試験結果を新聞やチラシが積まれたピアノの上に置いておいた。
ポチッ、とテレビをつけると、
『今週末は年末のグランプリレース、有馬記念。ファン投票で選ばれたホース達が激しいレースを繰り広げます。今年度の出走予定馬はーーー』
紹介される出走予定馬の名前を一つずつ確認していく。
昔と同じだ。
(ー2ー に続く)