第X章 第五節 受験
第X章 第五節 受験
日進塾、全国の都市部に展開している中学受験をする小学生向けの学習塾だ。
僕は6年生に上がる直前の12月、その塾が行った全国統一模試を受けて、偏差値75を叩き出した。
日進塾の牧ノ原校の副校長から、電話がかかってきた。
どうやら、その内容は、牧ノ原校の中で成績トップで、全国でも50位以内の成績だったとか。
冬季講習を無料にするから、是非入塾しないか、というような内容だった。
僕は5年生の冬休み、初めて進学塾の授業を受けにいくことになった。
ーーーこんにちは、佐倉賢一です。
と、受付の女性に挨拶すると、塾の名前がプリントされた合格鉛筆を1ダース渡された。
キャンペーンみたいな物かな?と思って受け取って、
ーーーありがとうございました。
と、言った。
ーーーあの、教室は?
と、訊いたら、
「公開模試の順位表と、クラス分け、席順は、そこに貼ってあるよ?佐倉くん、これから、よろしくお願いしますね」
と、受付の女性はにっこり微笑みながら、僕の斜め後ろの壁を指差した。
凄い人だかりになっていた。
「佐倉賢一くんて、誰?」
「知らない子、他の塾からの転入生じゃない?」
「初めてのテストで、1番取るなんて」
子供たちが、僕の名前を呼びながら、順位表を眺めている。
ーーーちょっと、ごめんなさい
と、言って人波をかき分けると、この間、受験した公開模試の結果の校内ランキングが貼り出されていた。
『一位 佐倉賢一 400点満点中395点』
あ、これ、僕だ。
隣にいた女の子に、
ーーーあの、初めてこの塾に来たのですが、教室が分からなくて、教えてもらえませんか?
と、訊くと、その女の子は、
「そうなんだ、名前を教えて?探してあげるよ?」
と、微笑んだ。
ーーー佐倉賢一っていいます。
と、答えた瞬間、周りがシーンとした。
ーーーえっと、その・・・
と、女の子の顔を見ていると、
その女の子は、困ったような顔をして、
「えっと、佐倉くんは、特進クラスの一列目の、真ん中の席だよ・・・。わたし、同じクラスだから、案内するね・・・」
と、言って、女の子が先導してくれることになった。
ーーーありがとう
と答えると、
女の子は小さな声で、
「いいの、いいの、わたし、席近いから。気にしなくていいよ・・・」
と言いながら、足早に教室に向かった。
この塾が、成績順でクラス分けが決まり、成績順で座席割が決まるルールだと知ったのは、その日の授業の合間の休憩時間のことだった。
まわりの生徒たちから、色々な質問をされたが、何を聞かれたか、今では思い出せない。
(本編に続く)