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第一章 第二節 準備 ー2ー

第一章


第二節 準備


ー2ー


退院の家族の迎えは、姉だった。


入院中の荷物や着替えの手配をしてくれたのも、全部姉だった。


医師と話をして、詳しい検査はさせず、1週間で退院させる方向に話をとりまとめたのも姉だった。


と、いうか、タイムスリップしてから姉以外の家族を見ていない。


父や、母や、伸ニを、まだ一度も見たことがない。


「けんにー、大丈夫?」


「けんにーには、わたしが付いてるから」


けんにーけんにーけんにーけんにー




ーーー(その呼び方で僕を呼ばないでくれないか!)


頭は、優希に対するイライラでいっぱいだった。


優希に、僕の何が分かる。


あんなに大事にしていたのに、大事にされればされるほど、束縛されているようで、大事にされることと束縛は、表裏一体だ。





もしかしたら、優希が、僕やサツキさんと同じくタイムスリップしていて、


自分が兄から大事に育てられたことに対して恨みを抱いていて、


大事にされるからこそ、味わう苦しみや束縛されている感を、僕に思い知らせようとしているのか。




ーーー僕は、姉さんのことが好きになれないよ。


と、退院した日、自宅に入る前に告白した。


すると、姉は、


「わたしは、けんにーが大事だよ。家族で一番。わたしが生まれてきたのは、けんにーのためだから。けんにーは、けんにーが好きなように生きたらいいよ。けんにーには、その権利がある」



ーーー僕に干渉しすぎないでくれない?




優希は黙りこんだ。

そして、


「わたしは、けんにーのために生きる。けんにーが死ぬのなら、わたしが代わりに死にたい」






そう言って、自宅のドアを開けた。


「ただいま、長男帰宅したよー」


と、姉が言った。


「今日の晩御飯はカツカレーだよね?父さんの手伝いしなきゃ。退院したばかりのけんにーは、部屋で休憩ね?しんにーは、今日、お風呂当番だよね?おのおの、よろしく」


ーーーおう。


と、言う父。


ーーー姉貴が決めたならそうなんだろ。


と、言う伸ニ。


ーーーフンッ!


と、言う母。


あれ?

なんだ、この違和感。


「けんにーは?」






ーーーえっと


身体が重たい。

逃げ場が無い。

家庭という、縛り付けられた空間。

他に行く先もない。



これが、僕がやっていたことだったんだ。

酷い。酷すぎる・・・。



居心地が、凄く悪い。


ーーー姉さんと話がしたいんだけど、少し


と、言うと、


「晩御飯、作らなきゃならないから、後でね」


と、言って、姉・僕の部屋に、僕をぴしゃりと閉じ込めた。





母が何かわめきちらしているのが、聞こえる。


晩御飯の呼び出しを待っていたら、父が僕を尋ねてきた。







「優希が、また出て行った」


と、ぽそりと呟いて、家のどこかに去っていった。


優希・・・。


探しに行かなきゃならない。直感的に居場所の検討は付いていた。




心臓がバクバクするのも忘れて、駆け出していた。


優希・・・優希・・・。


涙が溢れて止まらない。


優希が最初に生まれてなければ、こんなことにはならなかったはずだ。




母から竹刀で叩かれた痛み。


父から見放された言葉。


家出をした僕。


取り残された妹。




色んな気持ちがぐしゃぐしゃになりながら、はぁはぁ言いながら、あの公園に走っていた。



ブランコに座って、空を眺める姉の姿は、まるで、当時の自分を見ているようだった。



「ごめんね。わたし、一人で頑張って、家族を支えていた気になっていて」






ーーー


「けんにーが倒れたとき、わたし、必死で。頭が真っ白になって。夢中で心臓マッサージをしてた」






ーーー


「けんにーが死にかけたのは、けんにーのせいじゃないんだよ。わたしが、殺しかけてた」




ーーー違うと思うよ。何で、そう思うの?


「わたし、夢で見たんだ。夢の中で、けんにーは、わたしのお兄ちゃんで。心臓を悪くして、死にかけて。わたし、蘇生を試みたんだけど、お兄ちゃんが死んでしまって」




ーーー何かの勘違いじゃないかな?


「けんにーが生まれる前の日に、夢で見たんだよ。三軒町の駅。たまたま、同じ電車に乗ってた。けんにーの職場の駅だな、って。そしたら、人が倒れた、って。人混みをかき分けたら、けんにーがいて。もう死んでて」





血の気が、さーっと引いていく。


「わたし、頑張ったんだけど。助からなくて。けんにー」






そうだったのか。



確かにな。優希、たまに仕事の関係で同じ駅に。


って、言ってた。


仕事で近くに来たら、飲みに誘うから、って、生前、話していたよ。



ーーー僕は生きているよ。泣かないで。僕は、姉さんの味方だから。



「え?」


と、言って、姉は目元に触れる。

涙が雫になって、ポトリと落ちると、それは線になって、頬を蔦っていった。


「晩御飯、できた、って言われた?」


ーーーまだだよ


「そっか、けんにーは、カツカレー食べたい?」


ーーーうん。


「なら、帰らなきゃね」


姉が差し出した手を、僕はギュッと握りしめた。


もう、絶対に離さない。


そう思った。

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