第ー章 第二節 準備 ー1ー
第一章
第二節 準備
ー1ー
まずは、同じ学校に通う必要があると考えた。
学区は違うはずだが、お互いに通える範囲の共学校に入る必要がある。
僕は、中学受験をし、昔に通うことのできなかった、本当に行きたかった学校に入るつもりだ。
できれば、サツキさんを、同じ学校に入学させたい。
ーーーサツキさんて、学校の成績はどのくらい?これ、真面目な話。
「まあ、可もなく、不可もなく、って感じかな?」
そうか。ただ、頭の回転と飲み込みは早いのを僕は知っている。
ーーーあのさ、サツキさん、僕、中学受験するつもりなんだけど、一緒に中学受験して、同じ学校に行かない?
ぽかーん、とした顔で、サツキさんは僕を見つめている。
「わたしにそんなこと、できるわけないじゃん?頭わりーし?所長と一緒にするなよ?」
ーーーでも、記憶力はいいじゃん?真面目な話、してるから、大真面目だよ?
うーん、と頭を抱えるサツキさん。
「まあ・・・ね。所長に勉強教えて貰ったとしてさ、中学受験なんてできねーよ。うち、貧乏だから、学費払えないし」
実は、お金の心配はいらないんだよな。
僕は続ける。
ーーー例えばさ、所長が、その学校の出題と、その正解を全部覚えていたら、サツキさんは、それを暗記できる?
と、ニヤリ、として訊いてみる?
「反則っぽいけど、そのくらいなら、まあ。できると思うよ?」
ーーーヒュー♪
と、口笛を吹いてしまった。
これは、行ける・・・。
パチっ!と指を鳴らして、サツキさんをそっと指差した。
ーーーその学校、特待生制度があって、トップで受かったら中高6年の、最初の3年間、中学時代、学費が無料だったら、どうする?
ぽかーん。とした表情を浮かべるサツキさん。
僕は追い討ちをかける。
ーーー入学金から、制服、定期代すら全額支給されますが、通える?
さらに、ぽかーん。とした表情を浮かべるサツキさん。
僕は追い討ちをかける。
ーーー同じ学校に行こう!6年間!
サツキさんの目には涙が浮かんでいた。
「いいの・・・?わたし、そんなことして?」
ーーーいいんじゃない?サツキさんの中学、高校生活、だいぶ通常モードと変わるけどさ?
サツキさんは、しくしくと、涙を流しながら、うっ、うぅう。と泣いていた。
「わたし、中学の頃、あんな生活、イヤで、イヤで、でも逃げだせなくて・・・」
ーーー全部、知ってるよ。
「また、あんな辛い思いするのか、って・・・」
ーーー
「誰も頼れる人、いなくて、大人から弱みにつけこまれたり、依存症で、騙されたり、心がぶっ壊れて・・・」
ーーー
「だから、死ぬ前に所長に出会えて、なのに・・・」
ーーーもう、やめなって。お互い様だろ?
「・・・そうだね、所長はわたしの親友だよ」
ーーー僕もそう思ってるから。
うぇっ、うぇっ、と泣いているサツキさんを見ていて、違うことを思った。
サツキさんが、主席で入学か。
制服、似合うだろうな。
まだ子供だけど、数年したらとても可愛くなるのは、何となく察しがつく。
絶対、学年一の人気者になるなあ。
僕は、あまり学校に行くつもりは無いから、大丈夫かなあ。
ライブハウスの見当も付けはじめないと。
入院生活の1週間、マル秘と書いたノート、再来年出題される試験問題とその回答を書いてサツキさんに渡した。
2001年4月、必ず入学式で会おう。しばらく連絡はしない
と、最終ページに書いて。
僕が先に退院したとき、サツキさんはノートを大事そうに抱えて、手を振って見送ってくれた。
マル秘、と書かれた表紙の文字が遠目にもはっきり見えた。
大丈夫かなぁ。願書の出し方も付けといた方が良かっただろうか。
(ー2ー に続く)