第0章 プロローグ
音楽やめた社会人が20年前にタイムスリップしたら日本武道館を満員にしてしまった件
桜製作所(team Sakura)著
第0章 プロローグ
ここのところ、ずっと仕事が忙しくてちゃんと休む時間が取れない。
1か月くらいの長い出張から戻ってきても、オフィスに戻れば1か月分の書類の山。
朝から、なんだか頭が痛いが、毎朝恒例のエナジードリンクと無糖のコーヒーを飲んで何とか仕事の準備。
1か月分の溜まった仕事の遅れを10日で取り戻さなきゃならない。
今日が何曜日だか、何連勤だか、もはや分からなくなっている。
部屋のカレンダーも先月のままだ。
はああ、自分、何やってんだろう。
例えば、生きてくためには稼がなきゃならない。
例えば、誰かを養わなきゃならない。
例えば、仕事に対してやりがいを感じる。
みんな違うけれど、何か理由があって働いている。
そして、みんな満員電車に乗っている。
満員電車は、身だしなみのきちっとした社会人が、無表情でスマホの画面に目を向けている。座っている。
お年寄りや、小さな子供が立っていても、席を譲る人なんてほとんどいない。
彼ら、彼女らも、それぞれのオフィスに行けば、「おはようございます」と、明るい挨拶をし、精力的に働くに違いない。
ほんとに、自分、何やってるんだろう。
こんな大人になるために生きてきたんだろうか。
これが当たり前な、普通の社会人で、自分もそうなることを望んできたのか。
自分が就職活動をしていた大学4年の頃を思い出すと同時に、社会人をめざしてリクルートスーツを着ている学生を見ると毎年思う。
ホントにこれってやりたいことか、自分?
自問自答したって、誰も答えてくれない。
情けない、これ以上をもう考えるのはやめてきた。
自分、努力してきたかな?
努力してきてないかな?
昔どんなことを考えてたり、目指していたか、もう忘れてしまった。
最近流行りのバンドとか知らないし、若い子はどんな音楽聴いてるのかも知らない。ただ、昔大好きだったCRAYのサウンドなんて、もう誰も聴いてないに違いない。
何でそんなこと考えたか、って言ったら、同じ電車の女子大生2人が今度見に行く流行りのバンドの話をしているからだ。
懐かしいな、「音楽」。
『次は、三軒町、三軒町。南北線はお乗り換えです』
電車を降りなきゃならない。
すみません、と言いながら人波を掻き分けて、最寄りの駅で降りた。
さあて、働くか、仕事だ。
階段を一段、二段と登っているときだった。
突然ズキンとする痛みが身体を走り、視界が真っ白になった。
ーーー 人が倒れた!
ーーー 階段止まって!
ーーー 119番、誰か!
あ、自分、死ぬ。
最期に考える時間は、数秒しかなかった。
人生が終わるときなんて、意外とあっけない。
(第0章、了)