周回必須ゲームに誰も転生してこなかった版
貴方の名前を教えてください。
First name アニー
Last name ネルソン
誕生日を入力してください。
1st April
それでは、魔法の物語をお楽しみください。
それは唐突だった。
「…どうか世界を助けるのに、貴女の力を貸していただけないでしょうか。」
なんて、言われることって世界に何人いるんだろう?
その妙にキラキラした人は私の住むオルレアン王国の王太子シャルル・ド・オルレアンだ。その王太子が直々にただの庶民である私に言うのだから、逆らえるはずもなく、「ハイ、分かりました」と答えるだけだった。
ーーーこのお話に出てくるキャラクターやイベントは全てフィクションです。
ーーー現実の故人や生きている人によく似ていても、それは純粋な偶然です。
プロローグーー始まりの日
まず何故私が王太子直々に世界を救ってくれなどと大義を貰ったか、というと、ある冬の日に遡る。
「おーい、アニー、いるかい?」
私より四つ年上の兄、アンドリューに突然呼ばれた。
「なあに、お兄ちゃん。」
いつものように井戸の洗い場で洗濯をしている手を止めて、兄さんの方へ駆け寄った。既に両親は他界し、兄と私の2人きりとなってしまってから、私の面倒を見てくれた。勿論まだ兄も幼かったから、村長のデイビス夫妻に後見してもらっているが、それでも、兄がずっと面倒見てくれていたのだ。
「村長の具合が良くないみたいだ。熱ざましの薬草を取りに行きたいんだけど、ついてきてくれるかい?」
「勿論!ちょっと待って。」
家にポーチとナイフを取りに戻って再び兄の元へ戻る。今にも壊れそうなナイフだけれど、無いよりはマシ。これでも、運動神経は男の子顔負けと言われるくらいお転婆娘で、狩猟にだってよくついていっている。
「準備できた?じゃあ、行こうか。」
先に進む兄の後を、跳ねるような足でついていく。いつも通りの長閑な村。静かに流れる時間が私は大好き。
森の道に入ると冬で腹を空かせた犬科の魔族が現れた。犬歯をむき出しにして唾液がダラダラとたらしている。
「アニー、いくよ!」
アンドリューとの連携には慣れている。少しこの弱いナイフのせいで手間取ってしまったが、数分のうちに倒し終わる。私は倒せてよかったなどと思っていたのだが、兄は険しい顔をしている。
「お兄ちゃん、どうしたの。」
「いや…、ちょっと様子がおかしく見えて…。杞憂ならいいんだけど。」
兄の悪い予感はほとんどあっていたように思う。あれから、森の中を15分ほど進んでいるが、魔族と会う回数が通常よりも多い。
「アニー、君のナイフはまだ大丈夫そう?」
「うん、なんとか。お兄ちゃんのは?」
「俺のもなんとかね。村長には悪いけど今日は引き返したほうがいいかもしれない。」
その通りだと同意して、戻ろうとした時だ。
「誰かいないですか!」
聞いたことが無い男性の声に、私はすぐに返事をする。
「いますよ、どこにいますか?」
「こっちです、崖の下です!」
兄に呼び掛けると、再び声が聞こえる。それを頼りに探し回ると、3メートルの崖の下に高そうな服を着た優しげで綺麗な男性が足を庇うように蹲っていた。
「大丈夫ですか!」
「はい、足を挫いてしまったようです。狩りに夢中になってしまって共と離れてしまいまして。」
「今そちらに向かいますね。」
兄が持っていた縄を木にしっかりと結びつけて、慎重に降りていき、私も後を追う。
そして、兄が先に男性に声をかけ、足の様子を見る。
「たしかに捻挫のようです。アニー、頼めるか。」
「ん、勿論!これくらいなら私に任せて。」
体の前に手を合わせ、目の前の彼の平穏を祈る。すると、キラキラとした光に包まれて、赤い腫れは時間を戻すように引いていく。
「お待たせしました!いかがですか?」
彼はポカーンと驚き呆けていた。当たり前かもしれない。しかし、村でも私1人しかこの魔法は使えないし、呪文とかも何も知らないから、説明のしようがない。
それから、数秒経ち、我に帰った彼は私に感謝を述べた。
「ありがとうございます!そして、名乗らぬ失礼をお許しください。私の名はシャルル・ド・オルレアンと申します。」
丁寧にありがとうございますと礼を言いながら私も名前を名乗る。先ほどから何も喋らない兄がおかしいなとそちらを見ると、兄は顔を青くした。
「シャルル・ド・オルレアン?!」
「あら、お兄ちゃん。知っている方?」
「当たり前だよ!アニー、この国の名前をちゃんと覚えているのかい?」
「…ええと、オルレアン王国だっけ?あれ?」
「国名と同じ姓を持つ人なんて、限られてくるだろう!」
生まれてから一度も村から出たことがなく、勉強も一切したことがない生粋の田舎娘の私は中々国名を思い出せなかった。
「…王様?」
「はは、私はその息子ですよ。よろしくお願いします、アニー。」
「ひ、ひゃい。」
王子様が本当にいるんだなんて、馬鹿なことを思った。それから、もう2度と会うことがないはずの彼に挨拶されてドギマギしていると、突然様子は変わった。
獣の咆哮がしてそちらを見ると、イタチのような形の肉食獣の魔族が、こちらを食べたそうに覗いてくる。
「また、魔族!」
「アニー、私と共に戦ってくれますか?」
「勿論。これも何かの縁です!」
シャルル王子は私の前に庇うように出て、剣を抜いた。私もナイフを取り出して構えるが、彼の動きは素早かった。村の男衆で一番強いフレディのような雑な動きじゃない。洗練された無駄のない動きに思わず見惚れてしまった。
兄と私も応戦したが、ほとんどシャルル王子が倒したようなものだった。ものの数分で片がつき、肩を撫で下ろした。
しかし、ここまで持っていたボロボロのナイフが折れてしまった。
「ああ、やっちゃった。お兄ちゃんからもらったナイフなのに。」
「アニー、じゃあ、このナイフを持っていき。」
「でも、お兄ちゃんの武器が…。」
「兄ちゃんは拳があるさ。」
力瘤を作って、兄は私を安心させる。
その様子を隣で見ていたシャルル王子は羨ましそうに微笑んだ。
「仲の良い兄妹ですね。」
「そうですね。たった1人の肉親ですから。」
「私にも妹がいるのですが、少し羨ましいです。家族というにはちょっと遠いので。」
妹がいる兄ということで少しだけ親近感を抱く。
「…王子様も大変ですね。それよりもこの後どうされるのですか。お供の方と合流した方が良いのでは。」
「そうなんですよね。…しかし恥ずかしい話ですが、はぐれてしまって。」
「狩りに来たんですよね。不幸でしたね、今日は魔族が多いし、気が立っている。」
「やはり通常とは違うのですね。そのような中、お二人はどうしてここに?」
「この先の洞窟に生える熱冷ましの薬草を取りに。お世話になっている方が病気で熱が高くて。」
「それは心配ですね。宜しければ何か返したいので、護衛として私もついて行きましょう。」
「ええ、でも悪いですよ!」
「いえ、この森の異常も調べてみたいのです。何かおかしいようなので。」
一国の王子を護衛としてつかせる?
そんな不敬があっていいのかとも思いながら、はいと頷いた。きっと彼を探している誰か彼の共と出会えれば良いのだけれど。
その先も数多くの気が立った魔族が出てきたが、シャルル王子がほとんど倒してしまった。傷がつくたびに私が治していたけれど、大した活躍はできなかった。
「この奥から嫌な気配がしてきますね。」
シャルル王子の言う通り、嫌な気配が洞窟の奥からやってきて怖気がたった。
「すごく嫌な気配ですね…。」
「貴女もそう思いますか?」
「え、はい。」
なるほどと意味深な返答をして、もう一度洞窟の方を見る。
「…この先は危険かもしれません。戻りますか?」
「へ?」
私たちは王子を見つけなければ、帰る予定でいた。しかし、私たちに力を貸すといってくれたのだ。
「王子様が嫌でなければ、私は薬草を取りに帰りたいです。」
「アニー。」
このメンバーでの主戦力は、なんとも恥ずかしいがこの国の王子様なのだ。厚かましいだろうと咎めるように兄が私の名を呼ぶ。
「良かった。本当は私も確かめに行きたかったのですが、巻き込んでしまうのに気が引けてしまっていたのです。」
シャルル王子がそういえば、私たちは頷いた。命じてしまえば簡単なのに、彼はちゃんと私たちの意思を尋ねてくれた。その優しげな風貌と同じく心も優しいようだ。
一歩、洞窟の中に足を踏み入れると、身を刺す様な強い力を感じた。
「これは。」
何度も足を踏み入れたことがある洞窟なのに、ここはまるで知らない場所だ。隣のシャルル王子が険しい顔をしている。
「お二人はよくこちらまで?」
「ここまで奥に来るのは偶にですが、森にはよく来ますよ。おかしいと思ったのは今日が初めてです。」
洞窟ですぐ様イモリのような魔族に襲われたが弱い敵だ。簡単にいなして殺す。
その時、さらに洞窟の奥からなんの生物かも分からぬ怪物の慟哭が響く。その先に急ぐとそのには蛇のような胴体に、大きく裂けた口に、目玉はカエルのごとくぎょろりと周囲を見回している。その余りにも醜悪な姿に、私は少したじろいだ。
「アニー!」
「大丈夫、お兄ちゃん!」
「お二人とも戦えますか?」
「うん。」
分からないが、これがこのままここにいると、村に悪影響を及ぼすのだけは分かる。
シャルル王子に合わせて、兄のナイフを突き刺すが、巨大には大して効果がない。
「どうしよ…!」
「アニー!先程は私に使ってくれた力を、ナイスに込めるんです!」
「ナイフに…?!」
私は森の平穏を取り戻したい。だから、目の前の魔を払う力を私に欲しい。そう願えば、ナイフが光に満ち溢れる。
「これなら!」
「アニー、私が隙を作りますので、そのナイフで倒してください!」
「うん!」
ありったけの力を込めて、怪物に突き刺すと、怪物のなかから光が溢れ出す。
「な、ぐは。」
苦悶の声が響き、怪物はなけなしの力で私にその鋭い爪を向けた。運動神経がいいと村中に褒められた私だったが、戦い慣れしていないせいか全く身動きが取れなかった。
「アニー!」
ザシュ。
兄が私を庇って、私の目名前が赤く染まる。
「お兄ちゃん!」
急いで駆け寄るが傷がかなり深い。
私の力で助けるのだろうかと、恐怖でぶれる。
「この!」
シャルル王子が怪物の首を叩き斬ると、ピクピクと数秒手足が動いたのち、動きを止めた。
「とにかく止血を!アニー、貴女の力でなら!」
「う、うん!」
シャルル王子の叱咤で、兄に集中する。
どうか助けてください。私には兄しかいない。お兄ちゃんがいなくなったらどう生きていけばいいのか分からない。
ーーー其方の願い、叶えてやろう。
女神の声が聞こえ、私と兄の周りに温かな光が湧き出る様に広がり、私の力がどんどんと倍増していくのが分かる。
「アニー…。」
兄の目にも力が戻ってくる。
「お兄ちゃん!」
「アニー、君はやっぱりすごい子だ。」
そう言って兄は私の体を強く抱きしめた。
暫く2人で抱きしめ合っていると、シャルルがいることを思い出して、2人で居住まいを正した。
「そんな恐縮しないでください。巻き込んだのはこちらですから。薬草はありそうですか?」
「あ、そうでした!」
怪物の遺骸の奥にある群生地には、変わらずそこにたくさん薬草が生えていた。
「良かった!お兄ちゃん、たくさんあったよ!」
「これで村長の病気が良くなるといいな。」
その様子を微笑ましく眺めていたシャルル王子の元へ、数人の男たちが走ってきた。
「王太子殿下、ここにいらしたのですか。」
「アンリ、ウィリアム、皆も無事で良かった。」
「貴方が、ですよ!御身はこの国で陛下の次に大切なのですから。」
「そうでしょうか?私の代わりはもういるでしょう。ここにいる女性は私などよりもっと大切なのです。」
と、シャルル王子は私を手で示した。意味が分からず、首を傾げているのは私もだが、シャルル王子の側近たちも不思議そうだった。
「その王太子殿下、説明してください。私にはそこら辺にいる農家の娘にしか見えません。」
「そうです、農家の娘です。」
「口を慎みなさい。我々は貴族なのですから、こちらが言うまで口を開いてはいけません。」
なんと横暴な。
シャルル王子はもっと優しかったのに。
「口を慎むのはアンリ、貴方ですよ。ちゃんと私の話を聞きなさい。彼女は100年、王国が待ち続けた光の子なのですから。」
こうして、冒頭につながる。