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『盟約のティルフィング』エピソード集1  作者: 精神感応4
『地獄の姫君はどこか変?』
8/42

気の利く双魔

 「だから引っ張るなって……」

 「ここまで来たらいいッスかね?」

 「まあ、先ほどからご本人の言う通りで我々が引っ張る必要はなかったと思っているのは秘密でありますがー、もういいでしょー」

 「愛元ちゃん!秘密になってないっスよ!?あ、伏見くん、引っ張っちゃってごめんっス!」


 アメリアと愛元はカフェの前まで来るとやっと双魔を解放した。双魔はすっかり疲れた顔だ。


 「……ん、もう遅いけどな……」

 「?遅いってどういうことッスか?」

 「あいやー、どうも注目されてしまったようですなー」

 「え?うわっ!なんかジロジロ見られてる?何でッスか!?」


 人通りの多い道で白昼堂々、若い男がタイプの全く違う少女に挟まれているのだ注目されて然りだった。行く人来る人、皆が双魔たちに好奇の視線を向けてくる。


 「兎に角さっさと店に入るぞ」

 「了解でありまーす」

 「あっ!二人だけズルいッス!アタシにも教えて欲しいッス!」


 双魔は視線から逃れるためにスッとカフェに入った。愛元もそれに続き、事態が余り飲み込めていないアメリア一足遅れて店に入る。


 落ち着いた雰囲気の店内は平日の昼ということもあって昼食を取りに来たビジネスマン風の人々がちらほらと座っているが、どちらかと言えば空いているようだった。


 「いらっしゃませ。三名様ですね?空いているお好きな席にどうぞ」


 エプロンを着けた双魔たちより少し年上に見える女性が出迎えてくれた。


 「ん、じゃあ、奥の席に」


 窓際に座ってまた変に注目されるのも嫌だったので双魔は奥の席に足を進めた。愛元とアメリアもついてくる。


 「ん、ここでいいか……二人はそっちに座ってくれ」

 「はーい!」


 双魔は外から死角になるテーブル席を選ぶとソファー側にアメリアと愛元を座らせて自分は反対側の椅子に腰掛けた。


 「ん、それじゃあ、好きなもの飲んでくれ」


 双魔はメニュー表を開くと二人に差し出した。それを聞いてアメリアがきょとんとする。


 「え?どういうことっス?」

 「ん?いや、俺が出すから好きなもの頼んでくれってことだが……」

 「え!?そんなの悪いッスよ!ね?愛元ちゃん」

 「そうですなー……流石に悪いような!……」


 遠慮する二人に双魔は苦笑してテーブルにメニュー表を置いた。


 「別に気にすることないだろ?そもそも、三人で遊んでたのに俺が掛けたせいでその時間が削れてるんだ。俺が二人のお茶代出すくらい当然だ。だから、好きなもの頼めって」

 「「…………」」

 「……どうしたんだ?」


 双魔の言葉を聞いたアメリアと愛元はポカンと口を開けて数秒固まっていたが、結局はメニュー表を手に取った。そして、それで顔を隠すように何やらひそひそと話し始める。


 「愛元ちゃん、愛元ちゃん……やっぱりお嬢が好きになったのってこういうところなんスかね?アタシもちょっとだけドキッとしちゃったッス……」

 「まあ、そうでしょうなー。私たちの年代でこう気を回せる御仁も少ないでしょうしー、まあ、それだけでもないと思いますがー……ここは素直にご馳走になっておくことにしましょー」

 「そうッスね……それじゃあ、アタシは……あ!このパフェとか美味しそうッス!イチゴがたくさんで!」

 「某はこの苺とチョコレートのパンケーキを……それとココアにホイップクリームトッピング」

 「愛元ちゃん、本当に甘いもの好きッスね?」


 メニュー表で顔は隠れているがその向こうからは楽しそうな雰囲気が伝わってくる。


 (さて、俺はどうするかね……)


 二人がメニュー表を立ててくれているお蔭で丁度双魔にはドリンクのメニューが見えていた。


 そのまま三分ほど経っただろうか、二人がメニュー表を寝かせて顔を出した。


 「ん、決まったか?」

 「はいッス!アタシはこのイチゴのパフェとミルクコーヒーでお願いするッス!」

 「某はこのチョコ苺パンケーキにココア、ホイップクリームトッピングで」

 「ん、分かった。まあ、鏡華たちも時間が掛かるだろうしそれくらい頼んでも大丈夫だろ」


 双魔は二人の注文を確認するとテーブルのベルを鳴らした。


 チーン!


 緩やかな曲の流れる静かな店内に甲高い音が響いた。席に通してくれた女性がすぐにやって来る。


 「お決まりですか?」

 「この苺のパフェとチョコ苺パンケーキを一つずつ。それとココアにホイップクリームトッピングで一つ。ミルクコーヒーを二つください」

 「以上でよろしいでしょうか?」

 「ええ、お願いします」

 「それではお待ちください」


 店員はさらさらと伝票に注文を書きつけると一礼して去っていった。


 それを見送ったアメリアは双魔と愛元の顔を交互に見てから話しだした。


 「それで、二人とも教えて欲しいッス!さっきの店の前のアレは何だったんスか?」

 「……覚えてたか……左慈」

 「まあ、某から言った方がいいでしょうなー、というわけでアメリア殿、よいですかなー?」

 「うん、何ッスか?」

 「某とアメリア殿は伏見殿を左右から挟んで歩いていたわけであります」

 「そうッスね?」

 「するとどうでしょう、伏見殿は白昼堂々、二人の女子を侍らせた両手に華の浮名を流す殿方、と人々から見られてもおかしくないわけであります」

 「なるほどー!……?ということは?」


 納得したのか頷いたアメリアだったが、何かに引っ掛かったのかすぐに首を傾げた。


 「察しがいいでありますなー、つまり、我々二人と伏見殿はそういう間柄と見られていた訳でありますなー」

 「……っ!?だからみんなアタシたちのことジロジロ見てたんスね!!……伏見くん……ごめんなさいッス……伏見くんにはお嬢も鏡華さんもいるのに……それにアタシなんて伏見くんとは釣り合わないッスし……アタシと伏見くんがその……付き合ってるとか思われたら伏見くんに悪いッスし……伏見くんも嫌がってたのに…………」


 全てを理解したアメリアは途端に萎れたように小さくなってしまう。苺のパフェに浮かれていたのが嘘のようだ。


 「……アメリア殿……」

 「いや、別に気にすることじゃない」

 「…………」


 思い込みで落ち込んでしまったアメリアを慰めようと愛元が何かを言おうとした瞬間、双魔がそれを遮るように口を開いた。愛元が双魔の方に顔を向けると目配せをして来た。双魔が何とかしてくれるのなら任せた方がいい。愛元は口を噤む。


 「…………伏見くん?」

 「まず、俺は引っ張られるのが嫌だっただけでお前さんが嫌だなんてこれっぽっちも思ってない。それと、そうやって人との関係に釣り合いを考えるのもあまりいいとは言えない。人間にはそれぞれ固有の価値がある。基本的にそれを比べるのは馬鹿がやることだからだ。自分を卑下することはない。取り敢えずここまではいいか?」

 「…………伏見くん…………はいッス!」


 アメリアは素直で単純なところがあるが愚鈍というわけではない。双魔の言わんとすることをすぐに理解し、パッと表情を明るくした。


 「……あー、あとアレだ……二人とも……うん……」

 「?」

 「何でありますか?」


 口ごもって、こめかみをグリグリと刺激する双魔に黙っていた愛元も口を開いた。双魔は固めを閉じて、何故かバツが悪そうに唸り……結局、何かを諦めたかのように二人を見た。


 「……おまえさんらは……二人とも十分可愛いからな……まあ、容姿に関しちゃ気にすることはない……と、俺は思う……逆に俺と付き合ってるなんて見られたらそっちが嫌だろう?」

 「「…………」」

 「ん?……どうした?」


 双魔の意外な発言にアメリアと愛元は再び固まった。丁度その時だった。


 「お待たせしました。苺のパフェ、チョコ苺パンケーキ、ココアのホイップトッピングにミルクコーヒー二つです」


 トレイに料理を乗せた店員がテキパキとテーブルにスイーツと飲み物を並べていく。


 「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

 「ええ、間違いありません」

 「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 店員は注文を取りに来た時と同じように一礼すると去っていった。


 「ん、それじゃあ、遠慮なく食べてくれ」

 「……は、はいッス……いただきますっ!」

 「いただくであります」


 アメリアと愛元は勢いよく自分の前に置かれたスイーツに手を付けた。まるで何かを誤魔化すように。双魔も穏やかにカップを持ち上げる。


 鏡華の洋服が決まるまでまだ時間はかかりそうだ。


 (……どんな服を着るのかね?)


 鏡華のこと考える双魔は見ることはなかった。目の前の二人の少女、可憐なその顔が苺のように赤く染まっているのを。



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