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『盟約のティルフィング』エピソード集1  作者: 精神感応4
『ロザリンのお願い』
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危ない待ち合せ?

 季節は寒さも去ってゆき、春も半ばとなり、街の雰囲気も明るく、温かく、賑やかになった水曜日。双魔は一人街を歩いていた。とある人物との待ち合わせのためだ。


 学園で魔術科の書類仕事を幾つかこなしてきたため、格好はいつものシャツにスラックス、その上には魔術科のローブを羽織っている。真っ黒なローブは暖かくなるにつれ、場違いになっていくが、見た目さえ気にしなければ、暑さにも寒さにも対応する魔術が施されているため快適なのだ。そして、双魔はあまり人目を気にしない。が、視線はしっかりと感じている。


 (……さっきから見られてるな…………何人か、魔導に関わる連中もいたな……子どもも何人か……まあ、そろそろ新学期だからな。学園の新入生かね?)


 そんなことを思う。今日こなしてきた仕事も新学期の授業に関するものだった。昨年、イサベルとの結婚を目論み、双魔が撃退したオーギュスト=ル=シャトリエはブリタニア王立魔導学園に魔術科の新任講師として着任していたのだが、双魔との決闘の最中に自爆して再起不能に陥り、また欠員が発生してしまった。


 学園長、ヴォーダン=ケントリスはその枠を双魔に任せたいというのだ。曰く……


 『他を当たってみたが適する人材が伏見君しかおらん。故に引き受けて欲しい。遺物科の単位は学科主任とハシーシュ君に儂から便宜を図るように含んでおく。君の立場は臨時講師から正式に講師となる。良いかな?と言っては見てみたものの、やはり選ぶのは伏見君自身。どうするかね?』


 選択はこちらに委ねてくれてはいるように聞こえるが、「欠員の責任は君にもある」、ともはっきり言われている。これでは断りようがない。というわけで、仕方なく双魔は話を受けたのだった。


 (もしかすると、あの中の誰かは学園でまた顔合わせるかもしれないな……っと、そろそろ時間か)


 双魔は懐中時計を見て少し足を早めた。因みに、今からの待ち合わせは双魔が正式に講師になることとは全く関係ない。


 待ち合わせ場所は繁華街にある噴水の前だ。目的の場所の付近で一番わかりやすい場所だったので双魔が指定した。


 (さて……もう着いてるかね?来てなかったら……心配だな……ん?よかった。来てるな……相変わらずあの人は……)


 人混みに慣れていないであろう待ち合わせ相手のことを心配した双魔だったが、その相手を発見し、ホッと一息ついた。そのまま足をさらに早めて近づいていく。


 距離が縮まるにつれ、待ち合わせ相手の姿がはっきりとしてくる。


 黒の厚底ブーツに、ボトムスは鮮やかなブライトオレンジのマーメイドスカート。トップスは白のシャツと黒の革ジャン。一言で表すならクールビューティー。柔らかく吹く春風に、若草色の美しい髪を揺らしながら彼女、ロザリン=デヒティネ=キュクレインは立っていた。


 余りの美しさに、逆に呆れてしまう双魔だが、花のように少し身体を揺らしながら待っているロザリンに声を掛けようとしたその時だった。あることに気づく。


 (…………綺麗な花に虫は付き物ってことか……)


 ロザリンの傍に”いかにも”といった風の人物が二人立ってしきりに話しかけている。片方はゴールドチェーンのアクセサリーを大量につけて全身を飾る浅黒い肌の大男。もう一人はタンクトップから露出した肌にいくつもの毒々しいタトゥーを刻み、サングラスをかけた背の低い男。どう見てもナンパだ。しかも柄が悪い。清々しいほどに。周りの人々もロザリンを心配してか、ちらちら視線を遣るくらいには柄が悪い。


 「ネーチャン!オレたちの話聞こえてるかな?暇なんだロー?オレたちとイ・イ・ト・コ・ロ!!行っちゃわナイ!?」

 「もしかして男でも待ってるのか?でも、お姉さんみたいなイカした女の子を待たせる野郎なんかより!オレたちと一緒に行く方が楽しいぜぇー?ホラ、イイコトしようぜぇ?」

 「…………」


 男たちはロザリンに必死になって話しかけているようだが、ロザリンは自分に話しかけられているとも思っていないようだ。男たちが強硬な手段に出る前にロザリンに声を掛けねばなるまい。


 (……アイツらのためにもな……)


 ロザリンは素の腕っぷしも恐らく学園でトップクラスだ。見たところ一般人のあの二人がロザリンを怒らせてしまったら確実に警察案件である。


 「……!」


 と、そこでロザリンがこちらに気づいたらしい。今日は犬耳も尻尾も生えていないが、双魔の目には三角の耳と抱きたくなる大きな尻尾がピンと立つのが見えた。


 「え?ちょっと!お姉さん!?…………」


 そのままロザリンはこちらに走って来た。瞬きをする間もなく双魔の隣でピタリと止まった。まるで風のように自分たちの前から立ち去る少女に、ナンパ男たちは呆然とするばかりであった。


 「後輩君」

 「すいません、お待たせしました」

 「ううん。待ってない」


 そう言うロザリンはいつも通り無表情だが、何処か得意げだった。ロザリンの表情を理由は今のやり取りだろうか。


 (……また、ゲイボルグに何か吹き込まれたのかね?……)


 『ヒッヒッヒッヒ!』


 何処からかゲイボルグの笑い声が聞こえてきた気がしたが、今日はラウンジにいるらしいので空耳だろう。


 「後輩君?」

 「ああ、すいません……服、お似合いですね」


 間近で改めて見ると春らしい着こなしに、素材の極上さも相まって、ロザリンは隣に立つのが少し躊躇われるほどの美人ぶりだ。雑誌などを読んでいる様子はないが、このファッションセンスはロザリンの謎の一つでもある。


 「うん、後輩君のために頑張った」

 「……ありがとうございます」

 (……この人は……)


 ロザリンはまた得意げな顔で鼻息を少し荒くした。真っ直ぐにそんなことを言われては双魔は照れるしかない。そして、照れた隙に、ごくごく自然にロザリンは双魔の腕を抱き寄せた。豊かで柔らかな二つの果実の狭間に双魔の二の腕が納まる。


 「……ロザリンさん?」

 「うん?」


 頬が熱くなるのを感じる双魔と対照的にロザリンは不思議そうに首を傾げた。特に思うところはないらしい。ロザリンの無表情には慣れたが、行動とスキンシップに慣れるのはまだまだ難しい。が、慣れるためには為されるがままがいい。腕は振りほどかないことにする。


 「……まあ、いいです。それじゃあ行きましょうか」

 「うん。今日はよろしくね」


 ロザリンは深く頷くと、一度双魔の腕から離れて、片腕で軽く組みなおした。歩き難いのを察してくれたらしい。


 こうして、無事待ち合わせた双魔とロザリンは目的の店へと足を向けるのだった。



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