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『盟約のティルフィング』エピソード集1  作者: 精神感応4
『地獄の姫君はどこか変?』
11/42

平穏は破られる

 「春の日差しはどこの国でも気持ちええね」

 「ああ……ん、鏡華少し待ってくれ」

 「?なぁに?」


 双魔はベンチに腰掛けようとした鏡華を呼び止めた。そして、ポケットからハンカチを取り出すと広げてベンチに敷いた。


 「ん、これでいい。せっかく買ったのに汚れたら気分も良くないからな」

 「ふふふっ!ありがとう、双魔」


 鏡華は微笑みを浮かべるとハンカチの上に腰を下ろした。双魔もすぐ隣に腰を下ろす。鏡華はこちらを見ると嬉しそうにもう一度微笑んだ。


 「それじゃあ、いただきます。はむっ……」

 「いただきます」


 二人してクレープを齧る。そのまま無言で咀嚼して味わう。


 (……ん、美味いな。見た目より甘くない……なかなか上品な味……)


 双魔の頼んだ抹茶のアイスクレープはなかなかの味だった。甘さ控えめの生クリームに抹茶の風味が活かされたアイスクリーム。こちらでは珍しい栗の甘露煮、それも大粒のものが三つも入っていて食べ応え十分だ。


 (……ん?何か香ばしいものが……黒豆か!うん、凝ってるな)


 カリカリと楽しい食感と香ばしさを感じさせるものが入っていたが如何やら砕かれた煎り黒豆のようだ。遠い異国の甘味にもかかわらずよく研究している。


 「……はむっ……もぐもぐもぐ……はむっ……」


 双魔は感心しつつ鏡華に目を遣った。好みの味だったのか小さな一口で何度もクレープを口に運んでいた。


 「美味いか?」


 「うん、美味しいよ。このドレッシング?って言うよりはソースやね。きっとマヨネーズに色々と入れてるんやろけどエビとアボカドに凄く合う。少しねっとりしてるのは零れて手が汚れないようにって言う気遣いやね。あのクレープ屋はん、凄いわぁ……双魔も食べる?」

 「ん、それじゃあ、一口」

 「はい、それじゃあ、あーん」

 「あー……もぐっ……むぐむぐ……うん、確かに美味いな」


 鏡華が差し出したクレープに双魔は齧り付いた。鏡華が言ったそのままの味だ。少し癖のある香草が使われているようだが、それが良いアクセントになっている。


 「双魔も一口頂戴?」

 「塩辛いの食ってる途中で甘いのはいいのか?」

 「ふふふっ、別に気にせえへんよ。お汁粉食べる時やってお漬物付いてくるし。それの逆」

 「ん、まあ確かにな。それじゃあ、ほれ」

 「いただきます……はむっ……むぐむぐ……うん!美味しい!これなら京でも通じるに違いないわぁ!」


 抹茶のクレープを一口食べた鏡華は目を大きく見開いてから満面の笑みを浮かべた。双魔と同じ感想を抱いたらしい。


 そこにキッチンカーから降りたお姉さんがやって来た。両手には湯気の上がる紙コップを持っている。


 「いやー!二人ともお熱いねー!ラブラブって感じ!?」

 「……まあ、これくらいは普通なんじゃないか?」

 「普通!?いやいや、これは失礼しちゃったかな!?まあ、それは置いておいて、これ紅茶、良かったらどうぞ!」

 「いいのか?」

 「試作品食べてもらってるお礼!二人とも褒めてくれてるみたいでホッとしたよー」

 「ほんまに美味しかったわぁ……いい腕してはるね」

 「いやー!そんなことあるのかなー?アハハハ!」


 二人に紅茶を手渡しながらお姉さんはにこにこと笑う。褒められたのがかなり嬉しいようだ。


 「車から降りて大丈夫なのか?」

 「うん、もうお客さんも少なくなる頃合いだからねー……商売も難しいのよ」


 ……ャーーーー!!…………ギャーーー!!


 三人が世間話を始めた時だった。大きな悲鳴が聞こえてきた。ここからは少し離れているようだ。思わずそちらに視線を遣る。ここからは何も見えない。


 「今の凄い悲鳴だったね?何かあったのかな?」

 「……あれくらいの悲鳴が上がってなんもない方がおかしいと思うけどなぁ……双魔はどう思う?」

 「ん?特に妙な魔力も感じない。スコットランドヤードと消防に任せておけば大丈夫だろ」

 「魔力って……おにいさん……もしかして、魔術師だったの?」


 お姉さんが驚いたように目をくりくりさせて双魔の顔を覗き込んだ。


 「まあ、な。いつも着てるローブで気づいてると思ったんだが……」

 「ローブ…………ああ!アレそう言えば王立魔導学園のローブだったかも!?……でも他の学生さんとは少し違くなかった?」


 キャーーーーーー!ギャアアアーーーーーー!こっち来るぞーーーーーーー!!!


 お姉さんが首を傾げた時だった。再び街に悲鳴が響き渡った。先ほどよりもこちらにい音が近づいてきているような気がする。


 ……ブオオオオォォォォォォン!!ファウファウファウファウファウ!!


 それを追うかのように機械音が聞こえてくる。こちらもかなり大きな音だ。さらにパトカーらしきサイレンの音も近づいてくる。明らかにただ事ではない。


 「もう、物騒なんだから!何が……って!!アレ何っ!?」


 音の方へ振り向いたお姉さんが絶句した。その理由は勿論双魔と鏡華の目にも映っている。


 それは鉄の塊だった。具体的に言えば大型のダンプカー。こんな街中、道路ではない場所に在るはずのない代物がこちらへ凄まじい勢いで迫ってくる。


 目を凝らせばその後ろでは幾つもの煙が上がりけたたましい消防車と救急車のサイレンが耳を叩きつけてくる。ダンプカーは所々凹んだり大きな傷がついている。察するに暴走し、多重事故を引き起こしてここまでやって来たのだろう。そして、その暴走が止まる気配はない。


 川沿いで和やかな時を過ごしていた人々は一瞬、呆然とし、すぐに我を取り戻した。


 「「「「「「キャーーーーーーー!!!」」」」」」


 目の前で悲鳴が上がった。親は子供を、犬の散歩をしていた人は犬を抱えて逃げまどい始めた。


 ギャギャギャギャッ!バキバキッ!ガーーン!!


 ダンプカーは激しく蛇行。木を薙ぎ倒し、石畳を削り、街灯をへし折って破壊し、明らかにこちらに向かってきていた。



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