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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第三章 秋の断章 -Tragedy-

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秋の断章⑥-1

 それからの日々を、俺は目の前の物事だけに集中することに専念した。


 文化祭の劇を成功させるために必死に練習に励み、志望する高校に入学するための勉強も欠かさなかった。


 本来は二十五歳であるなどという傲慢は捨てて、十五歳の中学生として生きることに努めた。


 そして週に一回ほど、燎火の見舞いに行った。


 一人で行く時もあれば、康太や日聖が一緒の時もあり、面子は流動的だった。


 康太と燎火は、意外にもそれなりに意気が合っているようで、当初よりも互いの評価は大分上がっているらしい。


 一見、水と油のような二人と、それから日聖。


 てんでばらばらで、似ても似つかない個性の集まりだ。


 しかし、だからこそ価値があった。


 彼らのやり取りを眺めている時ほど、俺の心が落ち着く時はなかった。



 もちろん、そんな喜ばしいことばかりで世界が満ちていた訳ではない。


 日聖との関係は、あれから大分様変わりした。


 燎火のいなくなった学校で、何かの枷が外れたみたいに、あの日から彼女とのスキンシップが増えた。


 ふとしたタイミングで、日聖は俺に唇を寄せるようになった。


 近くに誰もいない下校路で、当たり前のように手を繋いでくるようになった。


 人気のない屋上の隅で、長い間抱きしめてくるようになった。


 こっそりと互いの部屋を訪れて、逢瀬を重ねるようになった。



 行為をしかけてくるのは、いつも日聖の方からだった。


 俺はなすがままに、全てを受け入れた。


 仮に誰かに見られたら大変な事になるのに、俺には燎火という心に決めた相手がいるのに、つい日聖を許してしまっている。


 彼女を拒否することが、俺にはできなかった。


 心の奥では、俺だって誰かの温もりを求めていたのだ。

 

 覚悟を受け入れたとしても、やがて訪れる未来が怖くて、怖くて、堪らなかった。

 

 燎火を喪う恐怖から、必死に目を背けようとしていたのだ。


 実際、日聖との触れ合いはこれ以上ない悦楽と、安心感をもたらしてくれた。


 若い情熱の赴くままに振る舞い、共に墜落していく感覚に酔っていたのだ。


 ああ、分かっている。


 精神の均衡を保つための道具として、俺は日聖を都合良く利用している。


 あれだけ大切に思っていた、初恋の相手を慰み者にしている。 


 申し開きの余地はない。許されない不義を重ねていることは分かっていた。


 彼女の肌に直接触れる度に、心は満たされ摩耗していった。


 日聖はいまだ、以前のような愛の告白を直接投げ渡してはこない。


 どんな場面であってもあの言葉を口にすることはなかった。


 あくまで俺と燎火の行方を、その時が来るまで見守ってくれているらしい。


 その優しさに何も返せないのが、何よりも辛く惨めで堪らなかった。



 文化祭でステージの上に二人で立った後、俺たちはどうなるのだろうか。


 日聖との関係に、ちゃんとけじめをつけることができるのか。 


 そんなことを考えながら、いつもの練習終わり、彼女に誘われて家に通される。


 手を引かれて玄関から一直線で、小綺麗に整頓された二階の自室へと迎え入れられた。


 部屋の扉を閉じた瞬間、性急に唇を奪われる。


 指を絡め合わせながら、決まって日聖にベッドへ押し倒される。


 幼い頃からずっと憧れていた彼女の吐息を間近で感じ、なけなしの理性が攫われる。


 「永輔くん」と俺の名前を切なげに何度も呼び、上目遣いで眉を寄せてしきりにキスをしながら身体を絡めてきた。 


 まるで何かに追い立てられるみたいに、俺たちは貪り合い、互いを慰め合った。

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