秋の断章⑤-1
目玉のような月が睥睨し、漏れ出た妖しい光が俺の身体を差し貫く。
十月の見事な満月を眺めていると、カンナと初めて出会ったあの夜を思い出す。
いつものように親父が寝ているのを確認してから、俺はこっそり部屋から抜け出した。
俺は徒歩で、自らが最期を迎えるのに相応しい場所を探して歩き回った。
これから自分が死ぬことに少なからぬ恐怖は感じていたが、それよりも燎火を喪う未来の恐怖が勝った。
幸福な世界か千賀燎火か、そのどちらかを選べという神さまの悪趣味な余興。
その事象の真ん中に立っているジョーカーたる俺が消えれば、周辺にいる彼らはその影響から解放される。
燎火も運命の呪縛から解き放たれて、きっと病気も治り健康な身体で生きていくことができる。
そう確信していたが、それは俺にとって都合の良い考えに過ぎないのかもしれない。
俺が死んだら、彼女の病気が直る。そんな保証はどこにもないのだから。
神さまにそんなことをする義理は何一つとしてない。
しかし例え無駄死にする羽目になっても、このまま指を咥えて燎火が弱っていく姿を傍観していることはできなかった。
こんな唐突な幕引きで、日聖や康太に許されるとは思っていない。
彼らはきっと俺の死を悲しんで、同じくらいそれに憤ってくれるのだろう。
不謹慎だとは思うが、そんなに喜ばしいことはない。
それはつまり、俺の人生にもそれなりの価値があったということと同義なのだから。
俺の死は呪いを残すことになるが、それは同時に祝福となりえる。
結果的に彼らは救われる。
福島永輔が消えれば金輪際、誰も神さまの姦計に巻き込まれることはないのだ。
この数ヶ月ですっかり見飽きた登校路を歩きながら、ふと思ったことがある。
自らの死を目前にして分かった。
俺が初めて恋をした千賀燎火は、明日に訪れるかもしれない消失の恐怖にずっと耐え続けていたのだ。
それは一過性の恐怖ではない。
来る日も来る日も飽くことのない絶望に耐えながら、彼女はそれでも俺に微笑んでいたのだ。
いつか、彼女に愛なんてものについて持論を語ったことを思い出す。
あんなことを澄ました顔で偉そうに語っておきながら、俺は結局こんな愚かな方法でしか彼女への愛を明かせなかった。
そのことを、どうか許して欲しいと思う。




