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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第三章 秋の断章 -Tragedy-

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秋の断章④-2

「……止めましょう。このまま続けても、意味ないです」


 読むべき台詞の番に詰まるのは、今日で三度目だった。


 台本を丸めて俺に向けながら、日聖は溜息混じりにきつい口調で言った。


「練習に集中してくれないと、いくらやっても時間の無駄です。永輔くん、ずっと上の空で練習しているでしょう?」


「ああ、ごめん。悪かった」


 おざなりな謝罪をしながら、俺は溢れ出た欠伸を噛み殺した。


「受験が近いのに授業中に居眠りしているし、何をしているのかは知らないけど、疲れ切っているんでしょう?」


 無言を貫く。


 俺が今やっていること。


 それは彼女に話したところで、とても理解されるような行為じゃない。


「千賀さんが、そんなに心配ですか?」


 顔を間近まで近づけて、こちらを覗き込みながら日聖は尋ねてきた。


 何かの間違いで、唇同士が触れ合いそうな近さだった。


 いつになく凄みを感じさせる生真面目な仮面を張り付かせて、彼女は俺をじっと見つめてきた。


 自分よりもずっと歳下の女の子の圧に押されて、俺は力なく頷いた。


「……不安なんだ。燎火がこのままいなくなってしまうんじゃないかって考えたら、居ても立っても居られなくなる。怖くて、怖くて、消えてしまいたくなる」


 正直な気持ちを吐露すると、途端に日聖がふっと優しげに頬を緩めた。


 そして、子どもにそうするみたいに、俺の頭をしきりに撫でながら言った。


「今度、みんなでお見舞いに行きましょう。先生から、彼女が入院している病院について訊いておきます。こんな言葉は無責任かもしれませんが、きっとなんとかなるはずです」


 その優しい声が無性に胸に響き渡り、つい目頭が熱くなってしまう。


 穏やかに細まった日聖の瞳を見つめながら、俺はもう一度頷いた。


「心配かけてすまなかった。俺も、ちゃんとお前と一緒に舞台に立ちたい。だから、頑張るよ」


 日聖が「ありがとう、永輔くん」と笑み、左手に持った台本をもう一度広げた。


「それじゃあ、また始めましょうか」


 その台詞を合図として、再び台本の読み合わせが開始された。

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