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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第三章 秋の断章 -Tragedy-

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秋の断章④-1

 燎火が倒れたという話を聞いて、まず俺が抱いたのは悲しみでも怒りでもなく、「なぜだ?」という困惑だった。


 カンナは俺に、千賀燎火か、この世界かのどちらかを選べと言った。


 俺は彼女の目の前で、燎火を選ぶと告げた。


 決して喜ばしい話ではない。


 しかし、他の誰かが奪われる展開だったら、まだ納得ができてしまう。


 それなのに、なぜ彼女の病気が再発して、二択の一つである燎火本人が消えようとしているのだろう。


 他の不幸であったならば、どんな仕打ちでも耐えることができた。


 燎火が隣にいてくれたならば、歯を食いしばりながら何だって許すことができた。

 

 これではまるで話が違う。


 カンナは俺が苦しむ様子を見て、ただ嘲笑いたいというだけなのか。


 最後に分かり合えたと思ったのは、俺だけの勘違いだったのだろうか。


 疑問は無数に湧いて、残酷な現実の前になすすべもなく潰えていった。



 燎火が倒れたという報せを聞いたその日は、日聖との練習日だった。


 今日だけは帰らせて欲しい。


 教室でそう彼女に頼んだ。


 さしもの日聖も、気の毒そうな表情を終始浮かべていた。


 「学級委員長としても残念な話です」と彼女の不幸を悼んで、あっさり聞き入れてくれた。



 放課後、俺はそのままの足で陣西神社へ向かった。


 彼女の実家にも立ち寄ったが、チャイムを鳴らしても誰の応答もなかった。


 神社まで赴いて本社の前で祀られている神さまの名前を繰り返し呼んだが、いくら待っても本人が現れることはなかった。


 結局、夕方からその日の深夜まで、俺は神社の敷地内で待ちぼうけた。


 一秒一秒に願いを託して、ひたすら待ち続けた。


 しかしカンナは、一向として俺の前に姿を現さなかった。


 鞄の中にしまい込んでいた携帯を開いてみると、親父の着信履歴でいっぱいだった。


 仕方なく重い足取りで家まで帰った。


 とっくにバスは最終便が終わり、結構な距離を徒歩で歩いてきたので、実家に着く頃にはもう夜が更け始めていた。


 案の定、家に帰ると凄まじい剣幕の親父に説教された。


 所詮、今の俺はただの中学生に過ぎない。


 どうしても自分の活動に制限がかかってしまう現状を憎まずにはいられなかった。


 親父は母と別居した日から、目に見えて神経が過敏になっていた。


 彼がそんなだから、おかげで煙やアルコールに手を染める機会もすっかり減ってしまった。


 それでも本心から心配してくれるだけ、本当はありがたい話なのだろう。


 しかし今だけはありがた迷惑という奴でしかない。


 どうか勘弁して欲しかった。



 次の日、担任から報告があった。


 完治したと思われた重い心臓病が再発したため、千賀燎火は当分の間入院することになった。


 もう卒業まで会えないかもしれない。


 クラス全員揃って卒業式を迎えたかったが、本当に残念な話だ。


 教室を見回してみると、ほとんどの生徒は白けたような反応を示すだけだったが、中には多少残念そうな顔をしている生徒もいた。


 この前彼女と話していた女子生徒も、その中の一人だった。



 その日の放課後から、俺は日聖との練習を始めた。


 屋上で書き終わっている範囲の台本を読み合わせたり、実際のステージで動きの確認をする。


 辛い現実を紛らわす方法として、目の前の仕事に忙殺されることより最適なものはない。


 ただでさえ文化祭まで時間がないのだから、実際的な問題として目の前の課題に集中しなければならなかった。


 そうと分かっていても、心は絶えずざわつき焦燥していた。


 当たり前だ。


 俺の前から千賀燎火が再び消え去ろうとしているのだから。


 日聖も俺の気持ちをきっと分かってくれていたから、あえてその話題を口にしなかったし、変に心配する素振りも見せなかった。


 日が落ちる時間まで練習し、その後は神社や彼女に縁がありそうな場所を訪れて、門限まで粘りながらカンナが現れるのを待つ。


 そんな毎日を過ごすようになった。


 そして深夜に親父が寝ているのを確認して、再び家を出る。


 誰にも見つからないように注意を払いながら、夜更けまで神さまを探して町を彷徨い続けた。 


 気づけば、十月を過ぎていた。

 

 衣替えの季節になって制服も冬服に切り替わり、ブレザーを着用するようになった。


 夜の町はとても冷えていて、服を着込んでもあまり役には立たなかった。


 寒さで身体も心も凍てついてしまいそうだった。


 不安と闘いながら、俺は神さまの登場を待ち続けた。


 戯曲のように、つまらない会話を交わす相手も存在しない。


 ただ孤独に、彼女を待った。



 それでも、カンナが俺の前に姿を現すことは二度となかった。

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