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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第三章 秋の断章 -Tragedy-

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秋の断章②-3

 次の時間、行われたホームルームで事件は起きた。


 十一月の下旬に行われる文化祭。


 そこで催すクラス発表を決める会議が、その時間で行われたのだ。


 複数の生徒の提案と多数決の結果、俺たちのクラスはなんと劇を上演することになった。


 その結果に、俺は驚かされた。


 最高学年は決まって、文化祭にステージ発表を選ぶのが通例だ。


 とはいえ彼らは受験生だし、何より演劇なんて手間のかかる演目など普通は嫌がるものだったからだ。


 なぜ彼らがリスクを背負ってまで、文化祭で演劇を上演することに賛成したのか?


 考えられる要因は一つしかない。


 日聖愛海という同級生の存在のせいだ。


「この教室には本物の女優がいるんだから、劇をやるしかないよね」 


 クラスの中心的な存在である、派手目な女子生徒の提案がきっかけだった。


 他ならぬ女優という肩書きを持つ日聖愛海が主役をやれば、必然的に素晴らしい発表になるだろうという算段だ。


 しかも、あろうことか当の本人はその意見にまるで反対することなく、「構わないですよ」という一言で応じた。


 なんて無茶な話だと思ったが、今は劇団の活動を休止しているし、成績優秀な彼女は受験の心配もしなくていいのだろう。


 それを皆が分かっていた。


 そんな経緯で、いつの間にそう決まってしまったのだ。



 演じるタイトルは、シェイクスピアの言わずと知れた『ロミオとジュリエット』が選ばれた。


 定番を通り越して陳腐とさえ思える選出だったが、演劇のセンスなどあるはずもない中学生たちに文句を言っても仕方がなかった。


 問題は日聖の相手役、ロミオ役を誰が演じるかだった。  


 結論を言えば、その役に俺が選ばれた。


 日聖との共演役を選ぶ段階になって、誰もがたじろぎ手をこまねいていた。


 いくらあの日聖愛海と恋人役を演じられると言っても、そんな面倒で恥ずかしい真似は誰だって勘弁願いたい。


 それは俺だって同じことだ。


 そんな時、たまたま後ろの机だった羽瀬がこんなことを言い出した。


「なあ、永輔とかいいんじゃね?」


 すると、新田が真っ先にその発言に飛びついた。


「そうだな。委員長と滅茶苦茶仲いいし、適任って奴だろ」


 彼らは仲間内の冗談で言っているだけで、まさか二人以外に賛成する人間なんていないと思っていた。


 しかし、その期待は裏切られた。


 数秒後、日聖と仲の良い女子の一人が、「永輔君だったらいいんじゃない」としきりに首を縦に振りながら言った。


 それを合図に、「賛成」の声が波及しながら増えていった。


 気づけば教室には、これで話は決まったという弛緩した空気で満ちていた。


 俺はその空気に抗って、立ち上がって「ちょっと待ってくれ」と大声で叫んだ。


 塵ほども予想していなかった目の前の展開が信じられなかったし、何よりそんな真似は逆立ちしたって無理だと思った。


 助けを求めて、黒板の前で司会を務めている日聖に視線を投げかけた。


 彼女は何も言わずに、俺に向かってにこりと微笑んだ。


 先ほど見せた歪な笑みではなく、天使を想起させる純粋無垢を絵に描いたような笑顔だった。


 さながらその顔は、この帰結を心から嬉しがっているかのようにさえ見えた。


 全身の力をなくして、俺はへなへなと椅子に座り込んだ。


 それ以上反論することができず、そのままなし崩しで俺がロミオ役に選ばれてしまったというわけだ。


 ああ、分かっている。


 そんな冗談みたいな話、自分でもそう簡単に信じられるものじゃない。


 だってそうじゃないか?


 それはつまり、俺があの日聖と同じステージに立つということなのだ。


 例え文化祭の余興と言っても、憧れていた彼女と同じ劇で共演する。


 考えただけで頭がくらくらして、その場で昏倒してしまいそうだった。



 帰ったら、何がなんでもアルコールを入れよう。


 その後の話し合いの最中、俺はひたすら邪な考えを頭に巡らせていた。

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