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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第三章 秋の断章 -Tragedy-

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秋の断章②-2

 二学期になって、学校で顔を合わせた千賀燎火はまるで別人だった。 


 あれだけ鋭かった彼女の態度は、見違えるほど柔らかいものに変化していた。


 まるで聞こえていなかったかのように露骨な無視することはなくなり、話しかければそれなりの会話を交わしてくれるようになった。


 高圧的というよりは、むしろ恐縮しているようなおどおどした素振りを見せるようになった。


 常に周囲を威圧するようだった仏頂面を浮かべていることも少なくなり、たまにぎこちない笑みを浮かべる機会が増えた。


 何もそれは俺の前だけではない。


 他のクラスメイトに対しても、変わらない対応をするようになった。


 あれだけ協調性のなかった彼女はどこへ行ったのか、そこにはどこにでもいる普通の女子中学生がいた。


 友人の新田は燎火の変わりようを、「まるで借りてきた猫のようだ」と評していた。


 まったくその通りだと思う。


 あるいは牙を抜かれた虎といったところか。


 おそらく今の彼女の方が、より本来の千賀燎火の像に近いのだろう。


 少なくとも今の彼女は、十年後に出会った千賀燎火によく似ていた。


 かつての友人が戻ってきている気配はない。

 

 だが、それもきっと時間の問題だ。


 遠藤たちに嫌がらせを受けているという話も聞いたことはない。


 彼女は過去から立ち直って、いつかきっと輝かしい未来を手にしてくれるだろう。


 そう俺は信じている。



「千賀さん、随分と変わりましたね」


 授業の合間の休憩時間、やや唐突に日聖がそんなことを囁いてきた。


 膝立ちになりながら俺の机の前で頬杖をつく格好で、その視線の先には燎火がいた。


 慌てたような口ぶりで、彼女はクラスメイトの女子と話している最中だった。


 会話をしていたのはクラスメイトの大人しそうな女子で、その手には先ほど返却された小テストの答案があった。


 最後に燎火が自分のノートを渡すと、その女子は感謝の言葉を述べて自分の席へと戻っていった。


「未だに目を疑ってしまいますよ。あんな彼女を見るのは、私初めてですから。まるで魔法みたいじゃないですか」


「まるで魔法、か」


 俺は心の中で自嘲して、鼻を鳴らした。


「一体、彼女と何があったんですか?」


「特に何があったってわけじゃない。もしあるとすれば、俺が彼女に告白したってことぐらいだ。まあ、断られたけどな」


「そうですか。でも、それは私にとっては喜ばしい知らせですね」


 不敵に唇の端を緩める日聖から目を逸らして、俺は反対側の窓の奥先を眺めた。


 空は呑み込まれそうな青一面で、流線状に秋らしい鱗雲が浮かんでいた。


 祭りの日から今日まで、日聖は以前と変わらない態度で俺と接している。


 あの日の言葉は俺の勘違いだった。


 そう思いたくてもたまに転び出る言葉の端々や態度から、それは所詮都合の良い逃避だということをつくづく思い知らされる。


「……なあ、日聖」


 俺は半ば無意識で彼女に呼びかけてから、躊躇して口を閉じた。


 本当は彼女にあの言葉の真偽を問い質したかった。


 しかし、やはり二の足を踏んでしまった。


 真実が詳らかになったら、今の心地良い関係が決定的に崩れ去るのではないか。


 そう考えると怖かったのだ。


 結局、俺はこんなことを尋ねた。


「お前はまだ燎火のことが嫌いなのか?」


「ええ。私は千賀さんのこと、大嫌いです」


 ほとんど言葉が被さるようなタイミングで、日聖は即答した。


 その一瞬、その端正な顔が憎悪に歪んだのを俺は見逃さなかった。


 複雑な感情が脳裏を駆け巡る。


 鈍い痛みが、ずきりと頭を刺した。


 その愛しい顔を眺めるのが辛くなって、俺はもう一度彼女から目を背けた。

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