秋の断章①-5
日聖が優等生の仮面を被り出したのは、その次の日からだった。
元来、成績優秀で素行も悪くなかった彼女は、すんなりと教室の皆を騙すことができたのだ。
クラスメイトには隔てなく敬語で話しかける。
逆に話しかけられたら柔和な笑顔を浮かべて、丁寧で心地よい相槌を打つ。
それだけで彼女は、あっという間に両手で友人を抱えることになった。
日聖は守備良く、クラスの優等生というキャラクターに嵌まり込んだのだ。
その建前によって、俺たちは「優等生の好意」という免罪符のもと、公然と皆の前で親しくすることができるようになった。
皆にもそうしているのだから、俺一人に構っているのも珍しくはないという理屈だ。
それが根本の原因かは分からないが、いつの間にか彼女はスランプから抜け出したようだった。
あの日以降、彼女が俺に弱みを見せることは一度もなかった。
二年生になってクラスの委員長になった彼女は、優等生としての像を盤石のものとした。
孤高の美人として君臨する日聖愛海の姿は、もはやどこにもなかったのだ。
それが役者である日聖の演技であること。
俺がその片棒を担いだ共犯者であることを知る人間は、他の誰もいない。
あのひどく暑かった、夏の日以来。
日聖が俺のもとを去っても、二人からその思い出の温かさだけは消え去りはしなかった。
どうか笑い飛ばして欲しい。
いくつ年齢を重ねても、いくら喪失を経験しても、それだけは一途に信じて今日まで生きてきたのだから。
確証なんてどこにもない。
俺の希望的観測だらけの妄想に過ぎないだろう。
だけどきっと、それは祈りと言い換えることだってできるはずだ。




