秋の断章①-1
かつて日聖愛海という少女は、今よりずっと生きるのが下手な少女だった。
小学校の高学年になるタイミングで、彼女は東京から陣西町へ越してきた。
転校生という背景を抜きにしても、当時の彼女はクラスから浮いていた。
ただでさえ、素晴らしい容姿と聡明さを併せ持った稀有な少女だった。
小規模ながら芸能事務所の社長を務めていた父親の影響があったのだろう。
幼少期に子役としてデビューしてテレビCMや連続ドラマなどに出演しながら、以降は東京で活躍する劇団に入り生来の役者としての才能を発揮していた。
学業の合間に役者として活躍し、それに見合うだけの美貌と才能を兼ね備えた彼女はさぞかし異物として映っただろう。
しがない田舎の小学生にとって、彼女は否応なく自身の矮小さを突きつけてくる不条理の塊だった。
そして彼女の方も、その扱いを仕方のないものと諦めるだけの分別の良さを持ち合わせていた。
「……きっと私は、みんなからしたら怪物みたいな存在なんだろうね」
いつか日聖は、そんなことを冗談めかした顔で言ってきたことがあった。
彼女はあまりに多くを持つがゆえに、己を呪っていた。
なんて贅沢な話だと、何も持たない大多数は憤るかもしれない。
だが、そうなのだ。
憤りを向けるのは彼女ではなくて、この矛盾しきった世界の方だろう。
ここで一つ告白してしまえば、俺と日聖は通う小学校が違った。
だからそれは人伝に聞いた話を、俺なりに解釈したイメージに過ぎない。
とはいえ、中学校に入学して初めて出会った日聖愛海は、そのイメージからそう遠くない印象を与える少女だった。
クラスから浮いていると言えば、この世界の千賀燎火もそうだ。
しかし、二人はまるで対極の疎まれ方をしていたと言っていい。
日聖は見上げる対象であり、対して燎火は見下す対象だ。
相反してはいるが、間違いなく彼女たちは似たもの同士だった。
生きる場所が違う存在だった日聖と俺の距離が近づいたのは、運命の悪戯としか言いようのない巡り合わせによるものだった。
それは互いが十三歳という重要な時期だからこそ起こり得た、極めて偶発的な出会いだったのだろう。
俺たちの年齢があと一、二年違えば、同じような偶然が起こることはなかったはずだ。
全ては偶然の積み重ねに過ぎない。
しかしそれは、彼女と出会えた奇跡を愛せない理由にはなりえないのだ。




