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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第二章 夏の断章 -Romance-

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夏の断章④-4

「なあ、千賀さんは君をいじめていた女子たちに対して、どう思ってる?」


 昼休みの校庭。


 俺は購買で買った惣菜パンを齧りながら、いささか唐突に尋ねた。


「……何も。客観的に見て、私がいじめられるのは仕方がない話でしょう?」


 千賀燎火は弁当箱から視線を外さず、にべもなくそう答えた。


「君は彼女たちに対して、怒りとか憎しみとか、そういう感情を持ってないのか?」


「言ったでしょう。そんなのないし、心の底からどうでもいいの」 


 なおも無機質に、彼女は言う。


 秘められた欺瞞や強がりは感じられなかった。


「君にとってはどうでもよくても、俺にとってはどうでもいい話じゃないんだ。大切な友人が傷ついて黙っていられるほど、俺は大人じゃない」


 胸から湧き出た言葉を、俺はそのままに口にした。


 奇異なものでも見るような目つきでこちらを見てから、彼女は視線を伏せた。


「あなたにはなんの関係もない話。私は、我慢なんてしてない。……だってこれは全部、私が蒔いた種なんだから」

 

 寂しそうな声でぽつりとそう呟いて、彼女は弁当箱の卵焼きをそっと頬張った。


 日聖から聞いた話では千賀燎火をいじめていたのは、遠藤という女子をリーダーとしたグループらしい。


 遠目から本人を観察した限りでは、バレない程度に髪を茶色に染めて化粧をした、顔立ちのはっきりとしている女子だった。


 そういう女子特有の少々剣呑な雰囲気を漂わせながら、取り巻きを二人率いて廊下を歩いていた。


 率直に言おう。


 その遠藤という女子に、俺は復讐しようと企てた。

 

 復讐と言っても、そこまで大層なものじゃない。


 仕返しと表現した方が適切かもしれない。


 血が出ない程度の、ほんの悪戯に留めるつもりだった。


 だけどただ一つだけ、譲れない点があった。


 どうせやるなら派手にやってみたいと、そう思ったのだ。


 俺は作戦の舞台にカンナ祭こと、町で催される夏祭りを選んだ。


 会場の真ん中で水鉄砲か何かで彼女たちを水浸しにする。


 その情けない姿を携帯で撮影して、メールで千賀燎火に送信する。


 それが俺の考えた作戦の全容だ。



 手を叩いて笑ってくれて構わない。


 我ながら、馬鹿げたことを考えたものだ。


 こんなことをして、成功した暁に彼女が喜んでくれる保証はない。


 むしろやり方が幼稚過ぎて、幻滅される可能性の方が高いだろう。


 それでも、俺はこの作戦に全てを賭けてみようと思った。


 今は自分が信じたことを、全力でやり遂げるしかない。


 時空を超えて再び出会った彼女に向かって、ひたすら愚直に手を伸ばし続けるしかないのだ。


 難しい理屈もこねくり回した言い訳も、この際放っぽり出してしまおう。


 失敗した後のことはそれから考えればいいと、柄にもなく能天気に構えていた。



 全てのお膳立てがようやく終わった。


 夏の本番が、ようやく始まろうとしていた。

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