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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
第二章 夏の断章 -Romance-

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幕間3-①

 もうどこにもない過去の話をしよう。


 絶交を切り出したあの日以来、日聖と会話を交わすことはなくなった。


 彼女は他のクラスメイトと同様、俺の存在をはっきり無視するようになった。


 たまに委員長として声をかけてくる時も、その口調は砕けたものではなく、他人行儀な敬語になっていた。


 それでいいと思った。


 以前のように自然に女子たちの輪に紛れて、楽しそうに笑う彼女の姿を眺めてようやく溜飲を下げた。


 それはそれとして後悔はあった。


 当然だ。


 年端も行かない中学生が、そう簡単に割り切れるものではない。


 日聖という灯火を失い、俺はいよいよ教室という小さな世界の中で完全に孤立してしまったのだ。


 耐えきれない孤独と暴力の中で、次第に「自殺」という二文字が脳内にちらつくのを認めざるをえなかった。


 俺がそれを実行しなかったのは、土壇場で幸運の女神が微笑んだからに他ならない。

 

 日聖との決別以降、長嶋たちが俺を呼び出す頻度が減るようになってきた。


 そして夏休みを境にして、ぱったりと止むようになった。


 運悪く校門の前ですれ違うことがあっても、彼らは完全に俺を無視した。


 大方、俺をサンドバッグにするのにも飽きたのか、それより殴りがいのある相手を見つけたかのどちらだろう。


 なんにせよ、俺を苛んでいた不幸は過ぎ去ったのだ。 


 とはいえ、素直に喜ぶだけの余力などあるはずがなかった。

 

 人間としての尊厳を剥奪される時間に怯える日々が終わったところで、それまでに失った何かが戻ってくるわけではない。


 康太はもう俺の知っている彼ではなくなった。


 日聖は死ぬほど憎んでいる男に奪われた。


 俺にもの見せるように長嶋と関係を結んだ日聖の顔を毎日見せられるのは、地獄に等しかった。


 皮肉なもので、それまで俺にとって唯一の支えだった彼女の存在は、いつしか最大の重荷となっていた。


 三年連続で日聖と同じクラスになったことは、当時の俺にとって絶望以外の何物でもなかった。



 はっきりと言ってしまおう。

 

 愚かな話だ。


 かつての日常の一端を取り戻せるかもしれないチャンスを、俺は自分の足で蹴ったのだ。


 長嶋たちから解放され、新田や初瀬を始めとした友人や同級生たちが少しずつ話しかけてくれるようになった(例外は日聖だけだった)。


 しかし、俺は彼らを拒んだ。


 簡単に手の平を返した彼らが許せなかったのだ。


 何より、幼馴染と初恋相手からの裏切りを経験して、俺はいつの間にか人一倍根暗な人間になってしまっていた。


 それ以上、他人と関係を築くことが煩わしくなってしまい、残り半分の中学生活を孤独のまま過ごすことになった。


 過去を水に流せる思い切りの良ささえあれば、俺の人生はまだまだ立て直しが可能だったのだ。


 そんな可能性が、すぐ近くに存在したという事実。


 それ自体が年月を経て、いつしか俺の絶望をさらに強める呪いとなったわけだ。



 家庭環境も悪化の一歩を辿った。


 両親は息子が突然根暗な性格になり、家に引きこもりがちになったことを最初は訝しんでいた。


 しかし妙なプライドのために、俺は彼らに一切事情を話さなかった。


 決定的な出来事は、俺が高校受験に失敗したことだった。


 二年生の二学期以降、良好だった俺の成績は下がり続けた。


 テスト前でも、ほとんど机に向かわない。


 部活動にも所属していなかったので、家に帰れば死んだようにベッドに横になる。


 そんな生活を送っていたのだから無理はない。


 親父は昔から、俺をそれなりの偏差値を誇る隣町の進学校に入れたかったらしい。


 かつては俺も、その意に沿いたいと思っていた。


 しかし俺はその高校にあっさりと落第し、どん底とは呼べないが、せいぜい三流止まりの高校に入学することになった。


 彼らがどれほど自分の息子に失望したかは、想像するに容易い。


 それ以来、明確に俺を不出来な息子とみなすようになり、可能な限り期待を注ぐことを止めた。


 食卓の場に仕方がなく同席すれば、呪詛のように小声を言われる日々が続いた。


 俺が安心して息をできる居場所は、とうとう自分の部屋だけになっていた。 

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