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拝啓、廻る季節に君はいない。  作者: 日逢藍花
序章
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幕間1-②

 二十五歳の冬。


 俺は自らの救いようがない愚かさのために大学を中退してから、あてもないフリーター生活を送っていた。


 将来への希望など皆無だった。


 生活費を稼ぐために働き、腹に食い物を詰め、眠って、起きる。


 ただ時間だけが浪費され、人生のリソースが無為に消費されていった。


 その時の俺は、ただ在るだけの存在とでも言うべきか、生きているだけの人間未満の存在だった。


 生きる希望はもちろん、死にさえろくな希望を抱けなかった。


 それならまだ亡霊の方が、現世の恨みを晴らすという目標があるだけ有意義な存在だっただろう。


 だがそんな色の褪せた毎日は、ある日を境に終わりを告げた。


 幸福な人生など諦めていた俺にも転帰が訪れる。


 今だからこそ断言できる。


 先人が語る通り、人生とは何が起こるか往々にして分からないものだ。


 一生のうちで味わう苦楽の総量は、蓋を開けてみれば丁度同じになる。


 そんな無責任な言葉を、俺はこれっぽっちも信じてはいない。

 

 やるせない人生を送ってきた者は、豊かな人生を享受してきた者が鼻で笑うようなちっぽけな幸福でもありがたがるものだ。


 反対に満たされた人生を送ってきた者は、その程度の幸福など歯牙にもかけやしない。

 

 その上、日陰者には「うまい話には裏がある」という教訓までつき纏うのだから救い難い。



 それでも彼女と過ごしたあの日々は、俺の中で間違いなく幸福な時間と断言できるものだった。



 だから俺は、あえてこう言いたいと思う。

 

 完璧に幸福な人生がないように、完璧に不幸な人生もまたありえないのだ。


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